親の家業を無給で手伝っていた場合、寄与分は認められますか?
親の家業に無償で労務を提供していた場合、「家業従事型」の寄与分(被相続人の事業に関して労務を提供した類型)として認められる可能性があります(民法904条の2第1項)。ただし、寄与分の一般的要件(特別性・無償性・因果関係)に加え、④継続性と⑤専従性の要件を満たすことが必要であり、実際には無償性の要件が満たされず認められないケースが少なくありません。
結論
親が個人で経営していた農業・商業・飲食業などの家業を、相続人が無給またはそれに近い形で手伝い続けていた場合、家業従事型の寄与分が認められる可能性があります(民法904条の2第1項)。
ただし、認められるためには、通常の親族間の助け合いを超えた「特別の寄与」であること、対価を受けていないこと(無償性)、一定以上の期間にわたること(継続性)、かなりの負担を伴う労務であること(専従性)といった要件をすべて満たす必要があります。実務上は、特に無償性の要件が壁となることが多く、親から給料や生活費を受けていた場合には認められにくいのが実情です。
根拠と条件
家業従事型の寄与分とは
家業従事型の寄与分とは、被相続人の事業に関して労務を提供した場合の寄与分です(民法904条の2第1項)。農業、林業、漁業のほか、製造業、小売業、飲食業、医師、公認会計士、税理士等の事業に従事することによって寄与が認められる場合があります。
認められるための要件
家業従事型の寄与分が認められるためには、寄与分の一般的要件である①特別性、②無償性、③因果関係に加え、④継続性と⑤専従性の要件を満たす必要があります。
①特別性(特別の寄与であること)
被相続人と相続人の身分関係や親族関係に基づいて通常期待される程度を超える、特別の労務の提供が必要です。たとえば、被相続人が家業として農業や商業を営んでいた場合に、配偶者がその家業を手伝っていたときは問題となりますが、夫婦間には協力扶助義務(民法752条)があるため、協力扶助義務の範囲内と評価されることが多いです。
②無償性(対価を受けていないこと)
相続人が家業に従事するにあたり、被相続人から給料や生活費、報酬等の給付を受けている場合、完全に無償であることはほとんどありません。ここでいう無償性とは、被相続人が第三者を従業員として雇用した場合に支払われる給与と、相続人に対する現実の給付との間に差額がないときには無償性がないと評価されます。つまり、世間並みの報酬に比べて著しく少額である場合には、無償性の要件を満たすものと解されます。
なお、裁判例では、相続人が相応の給料を得ている場合に家業従事型の寄与分は認められないと判断したものがあります(札幌高決平成27年7月28日)。
③因果関係(財産の維持または増加との因果関係)
寄与行為の結果として被相続人の財産を維持または増加させていることが必要です。
④継続性
労務の提供が一定以上の期間に及んでいることが必要です。明確な基準があるわけではなく、家業の内容や被相続人の状況等から個別に判断されますが、目安としては3〜4年程度の継続が必要といえます。
⑤専従性
家業への専業や専念までは求められませんが、従事(労務)の内容が本来の仕事の合間に行われる程度では足りず、かなりの負担を要するものであることが必要です。ただし、他の業務に従事しているからといって直ちにこの要件が否定されるものではありません。ただし、高校生や大学生のときに夏休み等に家業を手伝っていた程度では、専従性・継続性ともに満たしません。
被相続人が経営する会社への労務提供
被相続人の家業が個人経営ではなく法人化されていた場合、被相続人が経営する会社への労務提供は、あくまでも会社に対する貢献であって、原則として寄与分は認められません。
もっとも、会社が名ばかりで実質的には被相続人の「個人企業」であり、被相続人と経済的に密着した関係にあって、会社への貢献と被相続人の財産の維持又は増加との間に明確な関連性があり、無償性・継続性・専従性の要件が満たされたときには、ごく例外的に寄与分が認められることもあります(高松家丸亀支審平成3年11月19日参照)。
具体的な場面での適用
設例:農業を手伝った子の場合
被相続人Aが農業を営んでおり、相続人B・Cの2名が法定相続人であるとします。Bは大学卒業後、約10年間にわたりAの農業を無給で手伝い続けていました。Bに給与は支払われておらず、Aと同居して生活費はAが負担していました。この場合、Bの労務提供は特別性・無償性・継続性・専従性のいずれも満たす可能性が高く、家業従事型の寄与分が認められると考えられます。
寄与分額の算定方法
家業従事型の寄与分額は、一般的に次の算定方式で計算されます。
寄与分額 = 寄与相続人が通常得られたであろう給付額 ×(1 − 生活費控除割合)× 寄与期間
「通常得られたであろう給付額」は、家業と同種同規模の事業に従事する同年齢層の年間給与額を基準とし、賃金センサス等を参考にして定めます。「生活費控除割合」は、被相続人から受けていた生活費相当額を控除するためのもので、具体的金額が判明すればそれを、不明な場合は一切の事情を考慮して割合で定めます。
なお、被相続人と寄与相続人が共に長期にわたって農業に従事してきたような場合には、報酬ベースの算定方式に代えて、相続財産の全部または一部の一定割合を寄与分とする方式で算定することもあります。たとえば、大阪高裁は、みかん農家の長男の農業従事型の寄与について、遺産全体の30%とした原審を変更し、農地(みかん畑)の評価額の30%を寄与分と認めました(大阪高決平成27年10月6日)。

