親の介護をしていた相続人は寄与分を主張できますか?
親の介護をしていた相続人は、療養看護型の寄与分(民法904条の2第1項)を主張できる場合があります。ただし、寄与分が認められるには、①療養看護の必要性、②特別の貢献、③無償性、④継続性、⑤専従性、⑥財産の維持・増加との因果関係の各要件を満たす必要があります。介護保険における「要介護2」以上の状態にあることが一つの目安とされています。
結論
親の介護をしていた相続人は、「療養看護型」の寄与分として相続分の上乗せを主張できる可能性があります(民法904条の2第1項)。
療養看護型の寄与分とは、相続人が病気療養中の被相続人の療養看護に従事した場合の寄与分です。被相続人が自らの費用で職業看護人を雇わなければならなかったところ、相続人が療養看護をしたことで、被相続人がその費用の支出を免れ、相続財産が維持又は増加したと認められる場合に成立します。なお、療養看護には介護行為も含まれ、調停や審判で主張される寄与分の中で最も多い類型です。
ただし、親と同居して面倒を見ていたというだけでは寄与分は認められません。以下の要件をすべて満たす必要があります。
根拠と条件
療養看護型の寄与分が認められるための6つの要件
療養看護型の寄与分が認められるためには、寄与分の一般的要件である①特別の寄与であること(特別性)、②対価を受けていないこと(無償性)、③被相続人の財産の維持又は増加との間に因果関係があること、に加え、④療養看護の必要性、⑤継続性、⑥専従性の要件を満たすことが必要です。
① 特別の貢献(特別性)
被相続人との身分関係に基づいて「通常期待される程度を超える貢献」であることが必要です。したがって、被相続人の療養看護を要する程度及び療養看護の期間が問題となります。
寄与分を主張する当事者が具体的な療養看護の事実を主張立証することが必要であり、被相続人と同居していたという事実だけでは足りません。当該当事者の仕事の状況(有無、自宅にいる時間帯等)や、具体的な療養看護の事実(食事の用意、入浴介助、見守り等)、被相続人の心身の状況、被相続人が受けていた在宅又は通所の介護サービスの状況等を記載した陳述書を提出してもらうことになります。
なお、配偶者による介護は、夫婦の協力扶助義務(民法752条)に含まれますので、その貢献は配偶者の法定相続分に含まれていると評価できます。配偶者に特別の寄与であると認められるのは、実際には困難といえます。
また、通院に付き添うことは、親族として通常期待される範囲内であり、特別の寄与にはなりません。同様に、病院や施設の付添いやお見舞いをしても、また、病院や施設との連絡等においても身分関係に基づいて通常期待される程度のものとして、特別の寄与とはいえないと考えられます。
② 無償性
療養看護が無報酬又はこれに近い状態でなされていることが必要です。ただし、通常の介護報酬に比べて著しく少額であるような場合には、無償性の要件を充たすものと解されています。
明確に介護の対価との名目でなくても、小遣い、交通費といった名目で、定期的に一定額の金銭を受け取っていた場合にも、実質は介護の対価とされ、無償性の要件を満たしていないと評価されることがあります。
また、被相続人からの寄与行為の対価として金品が渡されたのであれば、無償性の要件を欠くことになります。
③ 財産の維持・増加との因果関係
寄与者の療養看護により、職業看護人に支払うべき報酬等の看護費用の出費を免れたという結果が認められなければなりません。相続人の看病によって被相続人に精神的慰安を与えたというだけでは足りません。
介護保険制度の導入以来、被相続人が介護保険制度による在宅サービスを受けていたり、要介護度による支給限度額を大幅に超えて介護サービスを受けている場合もあります。このように介護者である寄与主張者の負担が一定程度軽減されている例も散見されることから、財産の維持との因果関係について否定される例もあります。
④ 療養看護の必要性
被相続人が療養看護を必要とする病状(状況)であり、かつ、近親者(相続人)による療養看護を必要としていたことが必要です。
療養看護の必要性が認められるためには、被相続人が介護保険における「要介護2」以上の状態にあることが一つの目安になるものと考えられています。要介護2とは、歩行や起き上がりなどの起居移動がひとりでできないことが多く、食事や着替えはなんとか自分でできるが、排泄は一部手助けが必要な状態で、要介護1の状態より日常生活能力の低下があり、理解力の低下もみられる状態をいいます。
したがって、病状が重篤であっても、完全看護の病院に入院しているような場合には、近親者による療養看護の必要性が認められないため、基本的に寄与分は認められません。ただし、医師が近親者の付添看護の必要性を特別に認めた場合には、例外的に看護の必要性を肯定できる場合もあり得ます。
⑤ 継続性
療養看護が相当期間に及んでいることが必要です。継続性の要件を満たすには、おおむね1年以上であることが目安とされています。期間が1年未満の場合、身分関係や親族関係に基づいて通常行うと期待される程度と評価されるからです。
被相続人が自宅での介護、病院の入院又は施設の入所を繰り返していて、連続して1年以上でない場合でも、合計して1年以上であれば、継続性の要件を満たしていると考えるのが相当です。
なお、寄与分額の算定の際、被相続人が在宅又は通所の介護サービスを受けた日については、算入しない扱いが実際です。これら介護サービスの日を除いて、寄与分を主張する当事者が実際に療養看護した日が1年以上であることが必要です。
⑥ 専従性
療養看護の内容が片手間なものではなく、かなりの負担を要するものであることが必要です。ただし、「専業」や「専念」というところまでは要求されていないと考えられます。
例えば、被相続人と同居していたが、平日の日中は仕事をしていて、夜間の異変に備えて見守りをしていた場合や、被相続人とは別居しており、週末に被相続人の自宅に通って介護していた場合には、いずれも専従性の要件を満たしているとするのは難しいと考えられます。
具体的な場面での適用
設例:療養看護型の寄与分
被相続人Aの相続人は、長男B・次男Cの2名です。遺産は預貯金3,000万円です。Bは、Aが要介護3の認定を受けてから亡くなるまでの3年間(約1,095日)、仕事を辞めてAの自宅で入浴介助・排泄介助等の療養看護を行いました。Aは週3日のデイサービスを利用しており、その利用日数は合計約470日でした。
この場合、Bの寄与分額は次のように計算されます。
介護日数 = 1,095日 − 470日(介護サービス利用日) = 625日
報酬相当額(日当) = 6,578円(要介護3の介護報酬基準額)
裁量割合 = 0.7
寄与分額 = 6,578円 × 625日 × 0.7 ≒ 約288万円
ここで「裁量割合」とは、介護報酬基準額がプロの看護・介護の資格を有する者への報酬を前提としていることや、扶養義務を負う親族と第三者とでは報酬額が異なるべきことなど、一切の要素を考慮した調整割合です。通常は0.5から0.8程度の間で修正されており、0.7あたりが平均的な数値とされています。
寄与分が認められないケース
以下のような場合には、療養看護型の寄与分は基本的に認められません。
- 被相続人が完全看護の病院に入院していた場合(療養看護の必要性を欠く)
- 通院の付添い・お見舞い・病院との連絡のみの場合(特別性を欠く)
- 健常な被相続人に対する家事援助の場合(療養看護の前提を欠く)
- 介護の対価として金銭を受け取っていた場合(無償性を欠く)
- 介護期間が1年未満で、週末のみ通っていた場合(継続性・専従性を欠く)

