共有不動産がオーバーローン状態ですが、それでも共有物分割はできますか?
オーバーローン(住宅ローンなどの被担保債権の残額が不動産の価値を上回っている状態)の共有不動産であっても、共有物分割請求をすること自体は可能です(民法258条1項)。ただし、換価分割(形式的競売)の場合、消除主義のもとでは無剰余取消し(民事執行法63条)が適用され、原則として売却が実施されません。そのため、全面的価格賠償や現物分割など、他の分割方法を検討する必要があります。
結論
オーバーローン状態であっても、共有物分割請求権の行使自体は制限されません。裁判所も、オーバーローンであることを理由に共有物分割請求が権利の濫用にあたるとは、通常、判断していません。
ただし、分割の方法によって、オーバーローンの影響は大きく異なります。特に換価分割(形式的競売)を選択した場合には、担保権の処理との関係で、実際に売却が実現しない可能性があるという点に注意が必要です。
根拠と条件
換価分割(形式的競売)の場合
換価分割の判決が確定すると、形式的競売の手続に移ります。形式的競売における担保権の処理方法としては、実務上、消除主義(担保権者に配当を行い、担保権を消滅させる方式)が原則的に採用されています(民事執行法59条の準用)。
消除主義のもとで対象不動産がオーバーローン状態の場合、売却代金の全額が担保権者への配当に充てられ、共有者(競売の申立人)には代金が交付されません。この状態は無益な執行にあたるため、無剰余取消し(民事執行法63条)が適用され、原則として競売手続が取り消されます。
なお、最高裁は、共有物分割(換価分割)の形式的競売にも無剰余取消しの適用を認めています(最高裁平成24年2月7日決定)。
オーバーローン不動産の形式的競売について、消除主義・引受主義の選択とその結果を整理すると、次のとおりです。
| パターン | 担保権の処理 | 競売の帰趨 | 共有者への代金交付 |
|---|---|---|---|
| 消除主義+担保権者の同意なし | 担保権は消滅(配当) | 無剰余取消しにより競売手続終了 | なし |
| 消除主義+担保権者の同意あり | 担保権は消滅(配当) | 競売は遂行されるが、売却代金は全額担保権者への配当に回る | なし(被担保債権の減少という利益は得られる) |
| 引受主義(担保権者・共有者全員の同意) | 担保権は存続 | 競売は遂行されるが、買受人が担保の負担を引き受けるため入札額は低くなる | あり(ただし少額) |
引受主義が採用される場合、実質的には共有者が入札・買受けの候補者となり、比較的低い金額で不動産を取得できる可能性があります。ただし、引受主義の採用には担保権者と共有者全員の同意が必要です。
換価分割判決の意義
オーバーローン状態では、換価分割の判決を得ても、現時点で形式的競売による売却が実現しない場合があります。しかし、判決には有効期限がないため、将来、被担保債権の弁済が進んだり、不動産の価値が上昇したりしてオーバーローン状態を脱した場合には、その時点で形式的競売を申し立てることができます。
全面的価格賠償の場合
オーバーローン状態の不動産を共有者の1人が取得することを希望している場合、換価分割は実効性に乏しいため、消去法的に全面的価格賠償(共有者の1人が他の共有者に賠償金を支払って不動産全体を取得する方法)が選択されやすくなります。理論的には、全面的価格賠償の要件である相当性・実質的公平性が認められる方向に働くことになります。
ただし、全面的価格賠償の場合、賠償金の算定において被担保債権の負担分を控除するかどうかという問題が別途生じます。
現物分割の場合
現物分割(不動産を物理的に分ける方法)であれば、競売を伴わないため、担保権の処理の問題は直接には生じません。現物分割が可能な不動産であれば、オーバーローンであっても比較的支障なく分割を実現できます。
具体的な場面での適用
たとえば、AとBが建物を各2分の1の持分で共有しており、建築費用の融資として銀行の抵当権が設定されているケースを考えます。被担保債権の残額が3,000万円、不動産の時価が2,000万円(オーバーローン状態)の場合、Aが共有物分割訴訟を提起しても、換価分割の判決に基づく形式的競売は、消除主義のもとでは無剰余取消しの対象となり、原則として売却は実現しません。
この場合、Aが不動産全体の取得を希望するのであれば全面的価格賠償を主張する方法が考えられますし、AもBも取得を希望しないのであれば、将来のオーバーローン解消を見据えて換価分割の判決を得ておくことにも意義があります。

