共有不動産を分けるとき、価格は相続税の評価額で計算してもいいですか?

回答

共有物分割の場面では、相続税評価額(路線価)だけで不動産の価格を算定するのは不十分です。共有物分割における不動産の「適正な評価額」とは、市場における取引価格、すなわち時価を意味します(民法258条2項2号参照)。相続税評価額は公示地価の約8割を目安とする税務上の価格にすぎず、時価とは目的も水準も異なります。

目次

結論

共有物分割において不動産の価格を算定する場面では、相続税評価額(路線価)のみで計算することは適切ではありません。

共有物分割、とりわけ全面的価格賠償(共有者の1人がお金を払って不動産全体を取得する方法)における代償金の算定では、対象不動産の「適正な評価額」を基準とします。この適正な評価額とは、競売を前提とした卸売価格ではなく、市場における取引価格(時価)そのものを指します。相続税評価額は税金を計算するために定められた公的な評価額であり、時価とは異なる水準にあるため、これだけを基準にすると公平な分割を実現できないおそれがあります。

根拠と条件

共有物分割で求められる「適正な評価額」の意味

全面的価格賠償が認められるための要件の一つに、「共有物の価格が適正に評価され」、その評価額に基づく代償金を現物取得者が確実に支払えること、があります(最高裁平成8年10月31日判決)。ここでいう適正な評価額とは、当該共有物の口頭弁論終結時における市場価格(時価)を基礎とするものです。

なお、最判平成10年2月27日の河合伸一裁判官補足意見では、現物取得者が支払うべき代償金の額は、当該共有物の口頭弁論終結時における市場価格を基礎として、これを競売した場合に対価取得者が取得しうる配当金等の額を下回ることのないように定められるべきであると指摘されています。

相続税評価額と時価が異なる理由

相続税評価額(路線価)と時価が異なる主な理由は、それぞれの目的と評価水準にあります。

項目時価(市場価格)相続税評価額(路線価)
目的市場での取引価格を示す相続税・贈与税の課税標準を算出する
決定者市場(売買当事者)国税庁
評価水準の目安公示地価と同水準公示地価の約80%
評価時点取引時点毎年1月1日時点
個別性の反映個々の不動産の状況を反映道路に面する標準的な土地の価格

このように、路線価は公示地価の約8割を目安として設定されており、時価よりも低い水準にあるのが一般的です。また、固定資産税評価額は公示地価の約7割を目安としており、やはり時価とは異なります。

協議による分割と裁判による分割の違い

共有者全員の協議(話し合い)で分割する場合には、価格の算定方法について法律上の制限はなく、当事者全員が合意すれば相続税評価額をベースにすることも自由です。現実にも、純粋な時価よりも低い金額を代償金として定めるケースはあります。

これに対し、共有物分割訴訟において裁判所が全面的価格賠償を命じる場合には、時価を基準とした適正な評価額に基づいて代償金を算定するのが原則です。裁判所の判断においては、不動産鑑定士による鑑定評価が重要な判断材料となります。

具体的な場面での適用

たとえば、AとBが土地を2分の1ずつ共有しているケースで、Aが土地全体を取得する全面的価格賠償を行う場面を考えます。

【設例】
路線価に基づく相続税評価額:4,000万円
不動産鑑定士による時価評価:5,000万円

相続税評価額で計算した場合の代償金(Bの取り分):
  4,000万円 × 1/2 = 2,000万円

時価で計算した場合の代償金(Bの取り分):
  5,000万円 × 1/2 = 2,500万円

→ 差額:500万円

このように、相続税評価額だけで代償金を算定すると、持分を失う側(B)が本来受け取るべき金額よりも低い代償金しか受け取れず、実質的に不公平な結果となります。共有物分割訴訟においては、この不公平を避けるために、時価を基礎とした適正評価が求められるのです。

なお、全面的価格賠償の賠償額算定においては、共有であることによる減価(共有減価)は適用しないのが一般的です。全面的価格賠償は、経済的な面では共有持分の売買と同じですが、現物取得者が結果的に100%の所有権を実現するものであるため、共有減価を適用する前提を欠くと解されています。同様に、競売における売却価格の低下(競売減価)も適用されないのが一般的な解釈です。

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