共有物分割の請求は原則として認められますが、例外的に「権利の濫用」(民法1条3項)にあたるとして棄却された裁判例があります。代表的なのは、相続人の1人が住み続けている不動産(いわゆる遺産流れ)や、夫婦共有の住居について、分割によって居住者が住まいを失う事案です。
分割請求が棄却されることがあるのはなぜか
各共有者は、いつでも共有物の分割を請求できます(民法256条1項本文)。話し合いがまとまらなければ裁判所に分割を請求でき(民法258条1項)、裁判所は現物分割・賠償分割・換価分割のいずれかによって共有状態を解消するのが原則です。
その例外として、分割請求そのものが「権利の濫用」(民法1条3項)や信義則違反(民法1条2項)にあたり、請求が棄却される場合があります。ただし、分割の自由は共有制度の根幹にかかわる重要な権利ですから、権利の濫用によってこれを止め、共有状態の維持を強制することは、極めて特殊な事案でなければ認められません。棄却の一般的な枠組みと判断要素については、「共有不動産の分割を請求しても、認められないことはありますか?」で解説しています。
権利の濫用が争われやすい場面には、いくつかの型があります。相続人の1人が住み続けている不動産(遺産流れ)、夫婦共有の住居、住宅街の共有私道、分譲マンションの敷地です。このうち裁判例の蓄積が多いのは、遺産流れ型と夫婦間の共有です。
権利の濫用と判断された裁判例
遺産流れ型は、遺産分割によって相続人A・B・Cの共有となった不動産にAが住み続けていたところ、後に関係が悪化したBやCが共有物分割を請求するケースです。
東京高判平成25年7月25日は、先行する遺産分割協議が占有者の居住を前提としていたマンションの事案で、共有物分割請求を権利の濫用と判断しています。
このほか、先行する遺産分割の中で占有者が占有の対価を実質的に負担していた事案や、請求者の加害的な意図が詳細に認定された事案でも、権利の濫用が認められています。共通するのは、居住者がそこに住むことを共有者間で認め合ってきた経緯があり、分割を認めると居住者が退去を余儀なくされる、という事情です。
夫婦間の共有では、離婚に伴う財産分与を待たずに、夫婦の一方が住居の共有物分割を請求するケースが問題になります。
大阪高判平成17年6月9日は、分割を実施すると妻の居住場所を奪う結果となる事案で、夫の側に共有物分割をしなければならない理由が乏しいとして、請求を権利の濫用と判断しました。
婚姻関係が破綻しておらず、離婚までに長期間を要する見込みだったことから、その間ずっと妻の居住場所を奪うことになるという理由で請求を棄却した裁判例もあります。夫婦間では、離婚時の財産分与で清算すれば妻の居住を守る余地があるのに、あえて先に共有物分割をする合理性があるか、という観点が重視される傾向にあります。
権利の濫用が否定された裁判例
しかし、同じような場面でも、権利の濫用が否定され、分割が実現したケースは少なくありません。むしろ実際には、分割が認められるほうが多数です。
東京地判平成24年11月26日は、夫婦共有のマンションについて、換価分割(競売による売却)となっても妻は売却代金の持分相当額を得て別の住居を購入できるとして、権利の濫用を否定し、換価分割を命じています。
濫用を認めた例と否定した例とを分けた事情を整理すると、おおむね次のようになります。
| 棄却の方向に働いた事情 | 分割を認める方向に働いた事情 |
|---|---|
| 居住者の居住が共有者間の合意や遺産分割協議の前提とされていた | 過去に立退料の授受があった |
| 居住者の年齢・収入などから転居先の確保が困難 | 売却代金の分配によって転居先を確保できる |
| 請求者側に分割を急ぐ必要性が乏しい | 請求者側に売却代金を得る差し迫った必要がある |
| 婚姻関係が破綻しておらず、居住配偶者の住まいを長期間奪うことになる | 婚姻関係がすでに破綻している |
| 請求者に加害的な意図がうかがわれる | 提訴前に調停を申し立てるなど、交渉を尽くしていた |
裁判所は、居住者側が受ける不利益(客観面)と、請求の目的が不当でないか(主観面)の両方を見て結論を出しています。訴訟の前に任意の交渉や調停を経ているかどうかも、主観面の評価に影響する要素の一つです。
なお、令和3年の民法改正により、共有物の管理・変更について共有者の意思決定を重視する方向に制度が改められました。この改正を踏まえ、居住者が退去を強いられることを理由に権利の濫用を認める傾向は、従前より弱まっているという指摘があります。

