共有物分割請求が権利の濫用として棄却された裁判例にはどのようなケースがありますか?

回答

共有物分割請求は、例外的に「権利の濫用」(民法1条3項)にあたるとして裁判所に棄却されることがあります。典型的な類型は、遺産流れ(相続人の1人が居住する共有不動産の分割)、夫婦間の共有物分割、共有私道、区分所有建物の敷地です。もっとも、共有物分割請求は重要な権利であるため、裁判所が権利の濫用を認める場面は極めて限定的です。

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分割請求が棄却される場面の位置づけ

共有物分割請求は、各共有者がいつでも行使できる強い権利です(民法256条1項本文)。共有物分割訴訟が提起されれば、裁判所は現物分割・換価分割・代償分割(全面的価格賠償)のいずれかを選択し、共有状態を解消するのが原則です。

もっとも、例外的に、分割請求自体が「権利の濫用」(民法1条3項)や信義則違反(民法1条2項)にあたるとして棄却されることがあります。共有物分割請求は、共有者が自分の財産を自由に処分するための重要な権利であるため、これを制限して共有状態の維持を強制することには慎重な判断が求められます。そのため、裁判所が権利の濫用を認める場面は極めて限定的です。

なお、理論的には、訴えの利益を欠くとして訴えを却下するという構成もあり得ますが、実務上は一般的ではなく、棄却によって処理されるのが通常です。

権利の濫用と判断されやすい類型

実務上、共有物分割請求が権利の濫用として棄却されやすい類型としては、次のようなものがあります。

類型典型的な状況分割を否定する方向の要素
遺産流れ型相続で共有となった不動産に、相続人の1人(とその家族)が居住している共有者間で居住が許容されていた経緯、分割により居住者が退去を余儀なくされる
夫婦間の共有物分割夫婦共有の住居について、離婚前に共有物分割を請求する配偶者の居住権、分割により妻子が住居を失う
共有私道住宅街の通路として使用されている共有の私道通路としての使用目的、分割により通路として使えなくなる
区分所有建物の敷地分譲マンションの敷地(共有)専有部分と敷地利用権の一体性(区分所有法22条の分離処分禁止)

ただし、これらの類型にあたれば直ちに権利の濫用となるわけではありません。同じ類型でも、個別の事情によって分割が認められるケースも少なくありません。たとえば共有私道については、現物分割を認めたうえで、通路として使用できるよう地役権の設定を併せて認めた裁判例もあります。

なお、共有不動産がオーバーローン(負債額が売却額を上回る状態)の場合は、換価分割を選択しても無剰余取消しとなって売却が実現しない可能性がありますが、この一事をもって権利の濫用となる傾向はありません。

裁判所の判断要素

共有物分割請求が権利の濫用にあたるかどうかは、客観面(分割実現の不合理性・不利益)と主観面(分割請求の目的の不正・不当)を総合して判断されます。

客観面として重視されるのは、次のような事情です。

  • 共有不動産の現状(居住の経緯、現に生活の本拠とされているか、通路として現に利用されているか)
  • 分割類型の予測(現物分割や全面的価格賠償を選択できず、換価分割しか取り得ない結果、占有者が退去を余儀なくされるか)
  • 被請求側の転居可能性(年齢・収入・労働能力などから、転居先・代替住居の確保が困難か)
  • 請求者側の必要性(即時分割・金銭取得の必要性が乏しくないか)
  • 夫婦間のケースでは、離婚時の財産分与における予測との関係

主観面としては、分割請求者に被告を加害する意図(困らせる目的)があったかが問題となります。訴訟提起に至るまでの事情や、訴訟における主張・立証の内容から判断されます。逆に、訴訟提起前の交渉段階で請求者側の対応が丁寧であれば、加害意図は否定される方向に働きます。

これらの判断要素に関し、裁判例は、遺産分割後の相続人間で、占有していた共有者が先行する遺産分割の中で占有の対価を実質的に負担していた事案について、分割請求を権利の濫用と判断しています(東京地判平成3年8月9日)。また、夫婦共有の不動産について、分割を実施すると妻子の住居を奪う結果となり、かつ夫の側に分割を求める合理的理由が乏しい事案で、権利の濫用にあたると判断した裁判例もあります(大阪高判平成17年6月9日)。

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