意思能力を欠く共有者の同意を得てした法律行為は無効となるおそれがあります(民法3条の2)。そのため、共有者全員の同意が必要な売却や建替えには、成年後見人等の選任が必要です。もっとも、持分の価格の過半数で決められる管理行為(民法252条1項)は、その共有者を除いても過半数に達するなら、選任を経ずに決定できます。
結論
認知症の共有者がいる場合に成年後見人の選任が常に必要になるわけではなく、行おうとする行為の性質によって結論が分かれます。
不動産全体の売却や建替えのように共有者全員の同意を要する行為(民法251条1項)は、判断能力を欠く共有者から有効な同意を得られないため、成年後見人等(成年後見人・保佐人・補助人)を選任したうえで進めます。これに対し、持分の価格の過半数で決する管理行為(民法252条1項)は、その共有者を除いた残りの共有者だけで過半数に達するのであれば、選任を経ずに決定できます。
意思能力を有しない状態でした法律行為は無効とされるので(民法3条の2)、その共有者の同意が要件となる場面では、同意を有効に得る手立てがなければ先へ進めません。逆に、その共有者の賛成を要しない場面では、判断能力の問題が意思決定を妨げることはありません。
根拠と条件
意思能力を欠く共有者の同意は無効になりうる
民法3条の2は、法律行為の当事者が意思能力を有しないでした法律行為を無効と定めています。意思能力とは、自分の行為がどのような法的結果を生むかを理解する精神的な能力をいいます。
認知症の程度がこの水準に達している共有者から売買契約書や同意書を取り付けても、あとから本人・成年後見人・相続人が無効を主張するおそれがあります。もっとも、認知症の診断があればただちに意思能力がないと扱われるわけではなく、行為の時点の症状の程度に応じて個別に判断されます。
成年後見制度の3類型
判断能力が不十分な方を保護する制度が成年後見制度で、判断能力の程度に応じて次の三つに分かれます。
| 類型 | 判断能力の程度 | 開始の審判 | 保護者 |
|---|---|---|---|
| 後見 | 判断能力を欠く常況にある | 民法7条 | 成年後見人(民法8条) |
| 保佐 | 判断能力が著しく不十分 | 民法11条 | 保佐人(民法12条) |
| 補助 | 判断能力が不十分 | 民法15条 | 補助人(民法16条) |
成年後見人は、本人に代わって財産に関する法律行為をする代理権を持ちます(民法859条1項)。保佐人・補助人は、不動産その他重要な財産の処分について同意権を持ち(民法13条1項3号、17条1項)、家庭裁判所の審判により代理権を付与することもできます(民法876条の4、876条の9)。
居住用不動産の売却には家庭裁判所の許可が必要
成年後見人が本人の居住用の建物やその敷地について、売却・賃貸・抵当権の設定などをするには、家庭裁判所の許可を得なければなりません(民法859条の3)。保佐人・補助人が付与された代理権に基づいて同じ行為をする場合にも、この規定が準用されます(民法876条の5第2項、876条の10第1項)。
共有不動産であっても、本人がそこに居住していれば、その持分の処分は許可の対象になります。
令和3年改正で新設された裁判手続は使えない
令和3年改正(令和5年4月1日施行)では、共有者の一部を除いて意思決定できる裁判手続が新設されました。ただし、認知症の共有者の住所や居所が判明している限り、いずれも利用できません。
| 制度 | 根拠条文 | 利用できない理由 |
|---|---|---|
| 所在等不明共有者がいる場合の変更・管理の裁判 | 民法251条2項、252条2項1号 | 「共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない」という要件を満たさない |
| 賛否不明共有者がいる場合の管理の裁判 | 民法252条2項2号 | 申立ての前提となる催告が有効にならない |
賛否不明共有者の管理の裁判は、相当の期間を定めて賛否を明らかにするよう催告したのに、その期間内に回答がない場合に使えます。この催告は意思表示にあたりますが、意思表示の相手方が受領した時に意思能力を有しなかったときは、その意思表示を相手方に対抗できません(民法98条の2)。判断能力を欠く共有者への催告はこの規定により有効な催告と扱われず、申立ての要件を満たしません。
判断能力を欠く共有者がいる場合の対応は、令和3年改正後も成年後見制度によることになります。
具体的な場面での適用
全員の同意が必要な行為
A・B・Cが3分の1ずつ持分を有する土地について、Cが認知症により意思能力を欠いているとします。この土地を第三者に売却するには共有者全員の同意が必要ですから(民法251条1項)、Cについて後見開始の審判を申し立て、選任された成年後見人がCに代わって売買契約に加わります。建物の建替えなど、形状または効用の著しい変更を伴う行為も同じです。
過半数で決められる行為
同じ設例で、建物を3年以内の期間で第三者に賃貸する場合(民法252条4項3号)は管理行為にあたり、持分の価格の過半数で決します(同条1項)。A・Bの持分を合わせると3分の2で過半数に達するため、Cの同意がなくても、また成年後見人の選任を経なくても、A・Bだけで決定できます。修繕などの保存行為であれば、各共有者が単独でできます(民法252条5項)。
ただし、共有者間の決定に基づいて共有物を使用している共有者に特別の影響を及ぼす決定をするには、その承諾が必要です(民法252条3項)。Cがこれにあたる場合は、結局Cの承諾を有効に得なければならず、成年後見人等の関与を避けられません。Cの持分が大きく、A・Bだけでは過半数に届かない場合も同様です。
共有物分割
共有関係を解消する場合、協議による分割にはCに代わって成年後見人等が参加します。協議が調わないときは共有物分割訴訟によりますが(民法258条1項)、意思能力を欠く本人は訴訟行為ができないため、法定代理人である成年後見人が訴訟を追行します(民事訴訟法28条・31条)。

