共有者の中に認知症の人がいます。売却や管理の話を進められますか?
共有者の中に認知症の人がいる場合、その人から同意を得たとしても、共有不動産の売却や管理は無効となるおそれがあります(民法3条の2)。判断能力が不十分なときは、家庭裁判所に後見等の開始の審判を申し立て、選任された成年後見人・保佐人・補助人を通じて意思決定をする必要があります(民法7条・11条・15条)。
結論
共有者の中に認知症で判断能力が不十分な方がいる場合、その方の同意だけで共有不動産の売却や管理を進めることはできません。家庭裁判所に成年後見等の開始の審判を申し立て、選任された成年後見人等(成年後見人・保佐人・補助人をまとめてこう呼びます)を通じて意思決定を行うのが原則です。
理由は、意思能力を有しないでされた法律行為は無効となるためです(民法3条の2)。共有不動産の売却や管理に対する同意も法律行為ですので、判断能力を欠く共有者から形式的に同意を得たとしても、後にその効力を争われるおそれがあります。
根拠と条件
意思能力を欠く者の法律行為は無効(民法3条の2)
民法3条の2は、法律行為の当事者が意思能力を有しないでした法律行為は無効と定めています。意思能力とは、自己の行為の法的な意味や結果を理解し、判断する精神的能力をいいます。
認知症が進行し、契約の意味を理解できない状態の共有者から得た同意は、意思能力を欠くものとして無効と判断されるおそれがあります。後になって本人や相続人から「あの同意は無効だった」と主張されると、売却や賃貸借の効力そのものが覆りかねません。
成年後見制度の3類型
判断能力が不十分な方を保護する制度として、成年後見制度があります。本人の判断能力の程度に応じて、次の3類型に分かれています。
| 類型 | 判断能力の程度 | 開始の審判の根拠条文 | 保護者 |
|---|---|---|---|
| 後見 | 判断能力を欠く常況にある | 民法7条 | 成年後見人(民法8条) |
| 保佐 | 判断能力が著しく不十分 | 民法11条 | 保佐人(民法12条) |
| 補助 | 判断能力が不十分 | 民法15条 | 補助人(民法16条) |
成年後見人は、本人(成年被後見人)に代わって財産に関する法律行為を行う代理権を持ちます(民法859条1項)。保佐人・補助人は、不動産その他重要な財産の処分などについて同意権を持ち(民法13条1項3号、17条1項)、必要に応じて家庭裁判所の審判により代理権が付与されます(民法876条の4、876条の9)。
居住用不動産の処分には家庭裁判所の許可が必要
成年後見人が、成年被後見人に代わってその居住用の建物・敷地を売却・賃貸・抵当権設定などをする場合には、家庭裁判所の許可を得なければなりません(民法859条の3)。これは、本人の生活基盤に関わる重要な財産であることから、後見人の判断のみでの処分を制限する仕組みです。
共有持分であっても、本人が現にその不動産に居住している場合は、許可の対象になると解されています。保佐・補助の場合も、代理権の行使として居住用不動産を処分する場合には、同様の規律が準用されています(民法876条の5第2項、876条の10第1項)。
令和3年改正の特例制度は使えるか
令和3年改正では、所在等不明共有者がいる場合の変更・管理の裁判(民法251条2項、252条2項1号)と、賛否不明共有者がいる場合の管理の裁判(民法252条2項2号)が新設されました。これらは、要件を満たす共有者を除いて、残りの共有者で意思決定ができる制度です。
もっとも、認知症で判断能力を欠く共有者については、住所や居所が判明している限り、これらの特例制度はいずれも利用できないと解されます。
- 所在等不明共有者の裁判:「共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき」という要件(民法251条2項、252条2項1号)を前提とします。住所・居所が判明している以上、この要件を満たしません。
- 賛否不明共有者の管理の裁判:申立ての前提として、共有者に対し相当の期間を定めて賛否を明らかにすべき旨を催告することが要件となります(民法252条2項2号)。この催告は意思表示ですが、意思表示の相手方が意思能力を有しない者や成年被後見人であるときは、その意思表示をもって相手方に対抗することができません(民法98条の2)。したがって、判断能力を欠く共有者に催告をしても、有効な催告としての要件を満たさず、この制度は利用できません。
結局、判断能力を欠く共有者がいる場合は、原則どおり成年後見制度を利用して対応することになります。
具体的な場面での適用
売却・大規模な変更(共有者全員の同意が必要な行為)
共有不動産全体の売却や大規模な改修・建替えなどは、共有者全員の同意が必要です(民法251条1項)。認知症の共有者がいる場合は、成年後見人等を選任したうえで、その後見人等を通じて本人の同意を補う必要があります。本人が居住している不動産であれば、後見人の判断に加えて家庭裁判所の許可も必要となります(民法859条の3)。
短期賃貸借や賃料の設定(管理行為)
共有物の管理に関する事項は、各共有者の持分の価格の過半数で決します(民法252条1項)。たとえば、共有者A・B・Cがそれぞれ3分の1ずつ持分を有している場合、A・Bの賛成があれば過半数となり、認知症のCの同意がなくても管理事項を決定できます。
もっとも、決定が共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすときは、その承諾が必要となります(民法252条3項)。認知症の共有者がその対象となる場合は、結局、成年後見人等の関与が必要です。
共有物分割
共有関係を解消したい場合は、共有物分割の協議または訴訟(民法258条)によることになります。協議による分割では、認知症の共有者の代わりに成年後見人等が協議に参加します。協議が調わない場合は、共有物分割訴訟を提起することになりますが、訴訟においても、判断能力を欠く本人を当事者として扱うことはできず、成年後見人等が訴訟行為を行うことになります(民事訴訟法31条、28条参照)。

