被相続人の戸籍はどのように収集すればいいですか?読み方も教えてください。
被相続人の戸籍は、相続開始時の戸(除)籍謄本を起点に、順次従前の除籍謄本・改製原戸籍謄本を遡って取得し、出生から死亡までを連続させます(戸籍法10条1項)。令和6年3月1日施行の広域交付制度(戸籍法120条の2)により、本人・配偶者・直系尊属・直系卑属は本籍地以外の市区町村役場でも戸籍証明書・除籍証明書を請求できるようになりました。取得した戸籍は、改製事項・転籍履歴・婚姻・出生・認知・養子縁組・死亡の記載を順に読み解き、相続人を漏れなく特定する基礎資料とします。
調査・手続の概要
戸籍の収集は、相続調査のすべての出発点です。誰が相続人になるのかは、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍を連続して取得しなければ確定しません。婚姻歴、認知した子の有無、養子縁組の有無、すでに死亡した相続人の代襲相続人の有無などは、戸籍の記載を順に追うことでしか確認できません。
具体的には、被相続人の本籍地を管轄する市区町村役場で相続開始時の「戸(除)籍謄本」を取得し、そこから順次従前の「戸(除)籍謄本」や「改製原戸籍謄本」を遡って取得していくことになります。被相続人の本籍が婚姻・転籍・改製により複数回移動している場合は、それぞれの本籍地の市区町村役場に対して個別に請求する必要があります。
令和6年3月1日からは、戸籍法の一部を改正する法律(令和元年法律第17号)が施行され、戸籍証明書の「広域交付」の制度が実施されています(戸籍法120条の2・120条の3)。これにより、本籍地以外の市区町村役場においても、自分や父母、祖父母、子など(直系尊属・直系卑属)の戸(除)籍謄本を取得できるようになりました。相続実務における戸籍収集の負担は大幅に軽減されています。
兄弟姉妹が相続人となる場合(被相続人に子・直系尊属がいない場合)には、さらに被相続人の両親についてもそれぞれ出生から死亡までのすべての戸(除)籍謄本・改製原戸籍謄本等を取得する必要があります。また、相続人となるべき者が被相続人より先に死亡している場合(代襲相続が問題となる場合)には、その者の出生から死亡までの戸籍も取得する必要があります。
申請主体・申請先・必要書類
申請主体
| 請求方法 | 請求できる者 | 根拠 |
|---|---|---|
| 通常の請求(窓口・郵送) | 戸籍に記載されている者、その配偶者・直系尊属・直系卑属 | 戸籍法10条1項 |
| 通常の請求(窓口・郵送) | 上記以外の者で、自己の権利行使等の正当事由を明らかにした者 | 戸籍法10条の2第1項 |
| 通常の請求(窓口・郵送) | 弁護士・司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士等(職務上請求) | 戸籍法10条の2第3項 |
| 広域交付(窓口のみ) | 本人・配偶者・直系尊属・直系卑属本人(郵送・代理人請求は不可) | 戸籍法120条の2 |
申請先
| 取得方法 | 申請先 |
|---|---|
| 通常の請求 | 本籍地を管轄する市区町村役場の戸籍担当窓口(または郵送請求) |
| 広域交付(令和6年3月1日〜) | 本籍地以外を含む全国の市区町村役場の戸籍担当窓口(窓口対応のみ) |
必要書類(通常の請求の場合)
| 書類 | 内容・取得先 |
|---|---|
| 戸籍証明等請求書 | 各市区町村の様式(窓口のほか、多くの自治体ではホームページから様式をダウンロード可) |
| 申請者の本人確認書類 | 運転免許証・マイナンバーカード・パスポート等 |
| 被相続人との関係を示す戸籍謄本等 | 申請者の本籍地の市区町村役場(直系の関係が確認できる戸籍) |
| 手数料(全国共通の標準額) | 戸籍謄本(全部事項証明書):1通450円 除籍謄本・改製原戸籍謄本:1通750円 |
| 定額小為替(郵送請求の場合) | ゆうちょ銀行・郵便局の貯金窓口で購入 |
| 返信用封筒(郵送請求の場合) | 切手貼付・返送先記入 |
| 委任状(代理人が申請する場合) | 各市区町村の様式 |
手数料は、地方自治法228条1項により条例で定めるものとされていますが、戸籍関連の手数料は同項の委任を受けた「地方公共団体の手数料の標準に関する政令」(平成12年政令第16号)で全国一律の標準額が定められており、戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)450円・除籍全部事項証明書および改製原戸籍謄本750円が実質的な全国共通の手数料となっています。
必要書類(広域交付の場合)
広域交付では、本人・配偶者・直系尊属・直系卑属本人が市区町村の戸籍担当窓口で直接請求する必要があり、郵送や代理人による請求はできません。窓口にお越しになった方の本人確認のため、顔写真付きの身分証明書(運転免許証・マイナンバーカード・パスポート等)の提示が必要です。
申請の流れ
ステップ1:被相続人の本籍地・最後の住所地を確認する
本籍地が分かっていれば、直接その本籍地を管轄する市区町村役場で「戸(除)籍謄本」を請求できます。本籍地が分からない場合は、まず最後の住所地を管轄する市区町村役場で、本籍記載のある住民票を取得します(本籍の記載が省略されていないものを請求します)。
ステップ2:相続開始時の戸(除)籍謄本を取得する
被相続人の死亡が記載された最新の戸(除)籍謄本を取得します。被相続人が筆頭者で、他に在籍者がいない場合は戸籍全体が消除され「除籍謄本」となります。配偶者など他の在籍者が残っている場合は、被相続人だけが「除籍」の扱いとなり、戸籍自体は「戸籍謄本」として残ります。
ステップ3:従前戸籍を順次遡って取得する
取得した戸(除)籍謄本には、「従前戸籍」(その戸籍に入る前の本籍地・筆頭者)が記載されています。それを手がかりに、順次過去の戸(除)籍謄本・改製原戸籍謄本を遡って取得します。出生時の戸籍までたどり着いて初めて、被相続人の身分関係の調査が完了したことになります。
ステップ4:必要に応じて他の戸籍も取得する
- 各相続人の現在の戸籍謄本(相続関係を証明するため)
- 両親の戸籍(兄弟姉妹相続の場合):両親それぞれの出生から死亡までの戸籍
- 死亡した相続人の戸籍(代襲相続の場合):その者の出生から死亡まで
広域交付制度の活用を検討する
令和6年3月1日施行の広域交付制度(戸籍法120条の2)を利用すれば、本籍地が遠方にあっても、お住まいや勤務先等の最寄りの市区町村役場で取得できます。ただし、以下の制限があります。
- 本人・配偶者・父母・祖父母等の直系尊属・子・孫等の直系卑属が、市区町村役場の戸籍担当窓口に自分で出向く必要があり、郵送・代理人による請求は不可
- 顔写真付きの身分証明書(運転免許証・マイナンバーカード・パスポート等)の提示が必要
- コンピュータ化されていない一部の戸籍・除籍は対象外で、この場合は本籍地の市区町村役場に直接請求する必要がある
- 一部事項証明書・個人事項証明書(戸籍抄本)・戸籍の附票・身分証明書等は広域交付の対象外
- 兄弟姉妹の戸籍(被相続人と別戸籍となっている場合)は広域交付の対象外
- 本籍地への内容確認等が必要となる場合があり、当日交付できず後日交付となることがある(複数自治体の公式案内で明示)
所要期間と費用
- 窓口請求(通常):即日交付されることが多い
- 郵送請求:返信用封筒の到着日数を含め概ね1〜2週間程度
- 広域交付:本籍地への照会が必要な場合は後日交付となることがある(自治体案内による)
- 費用:1通450円(戸籍謄本)/750円(除籍・改製原戸籍謄本)が標準額
取得した戸籍で確認すべき項目
戸籍は単なる名簿ではなく、被相続人の身分関係の変遷がすべて記録された資料です。出生・婚姻・離婚・認知・養子縁組・離縁・死亡などの身分事項は、戸籍を時系列に読み解くことで初めて把握できます。以下の項目を順に確認していきます。
改製事項(戸籍がいつ・どの法令で作り変えられたか)
戸籍は、法律の改正に伴い何度か作り変えられています。この作り変えを「改製」といい、改製前の原戸籍を「改製原戸籍」といいます。現在よく目にする改製は、主に以下の2回です。
| 改製の根拠 | 改製の内容 |
|---|---|
| 昭和32年法務省令第27号 | 戸主を中心とした戸籍(旧法戸籍)から、夫婦とその未婚の子どもを単位とした戸籍への改製(改製前の戸籍を「昭和改製原戸籍」と呼ぶ) |
| 平成6年法務省令第51号 | 和紙に記載・保管していた戸籍をコンピュータ処理する戸籍への改製(改製前の戸籍を「平成改製原戸籍」と呼ぶ。実施日は市区町村ごとに異なる) |
改製された後の戸籍には、その改製時点で在籍していた者しか記載されません。改製前に死亡や婚姻で除かれていた者は載らないため、相続人を漏れなく把握するには、必ず改製原戸籍まで遡る必要があります。改製事項欄に「平成○年○月○日改製」「昭和○年○月○日改製」と記載されている場合は、それ以前の戸籍(改製原戸籍謄本)を別途取得しなければなりません。
転籍履歴(従前戸籍の記載)
被相続人が婚姻・転籍により本籍地を変更している場合、現在の戸籍には「従前戸籍」(その戸籍に入る前の本籍地・筆頭者)が記載されています。
従前戸籍の記載を手がかりに、順次過去の戸(除)籍謄本を遡ります。転籍があるごとに別の市区町村役場への請求が必要となり、ここで取得を怠ると被相続人の出生まで連続させられず、相続人の特定漏れが生じます。
婚姻・離婚の記載
被相続人の婚姻歴・離婚歴を確認します。前婚の有無、前妻・前夫との間の子の有無を把握する重要な項目です。
婚姻日・配偶者氏名・従前戸籍(配偶者の入籍前の戸籍)が記載されます。被相続人に前婚があり、前妻・前夫との間に子がいた場合、その子は現在の配偶者との子と同じく相続人です。離婚しても親子関係は消滅しないため、前婚の子も法定相続人として扱われます。
子の出生・続柄の記載
被相続人を父または母とする子の出生記載を確認します。
続柄欄(長男・長女・二男・二女等)、出生日、出生地、届出人を確認します。婚姻外で生まれた子(非嫡出子)は、母の戸籍に「女(または男)」とのみ記載され、続柄が「長男」「長女」等と区別される取扱いの時期もありました。戸籍の記載上の子の数と、被相続人本人から聞いていた子の数が一致するかを確認します。
認知の記載
被相続人が婚姻外の子を認知している場合、戸籍に「認知」の記載があります。
「認知日」「認知した子の氏名」「届出人」が記載されます。認知された子は嫡出子と同じく被相続人の相続人となります(民法779条・900条)。家族に知らされていない認知がなされていることがあるため、見落としに特に注意が必要な項目です。
養子縁組・離縁の記載
被相続人が養子縁組をしている場合、戸籍に「養子縁組」「養親○○」「養子○○」等の記載があります。
普通養子縁組では、養子と実方の父母との親族関係は終了しません(民法727条参照)。一方、特別養子縁組(民法817条の2)では、養子と実方の父母との親族関係が終了します。戸籍の記載上、両者は表記が異なるため、慎重に読み分ける必要があります。
死亡・除籍の記載
被相続人および各相続人候補について、死亡・除籍の有無を確認します。
相続人となるべき者がすでに死亡している場合は、その者の子(被相続人の孫)が代襲相続人となります(民法887条2項)。死亡日と被相続人の死亡日の前後関係(死亡の先後)が代襲・本位相続の区別を分けるため、慎重に確認します。
筆頭者と被相続人の関係
戸籍の筆頭者欄を確認し、戸籍上の被相続人の地位を把握します。
被相続人が筆頭者の場合は、被相続人の死亡により他に在籍者がいなくなれば戸籍は「消除」されます(除籍簿となります)。配偶者だけが残っていれば戸籍は維持され、被相続人は「除籍」の扱いとなります。後者の場合、「除籍謄本」ではなく「戸籍謄本」を請求することになります。
相続トラブルに備えたアドバイス
戸籍の収集は形式的な手続のように見えますが、相続調査全体の起点となる重要な作業です。ここでの漏れは、後の相続人特定の誤り・遺産分割協議の無効・蒸し返しなど、深刻なリスクに直結します。以下の点に留意することをお勧めします。
必ず「出生から死亡まで」連続させる
最も多い誤りが、相続開始時の戸籍だけ取得して安心してしまうケースです。改製や転籍があった場合、改製前・転籍前の戸籍に記載されていた婚姻歴・認知子・養子縁組等は、現在の戸籍からは読み取れません。被相続人の出生まで遡って戸籍を連続させ、空白期間がないことを確認することが必須です。
認知子・前妻の子・養子の見落としに注意
家族に知らされていない認知子、被相続人が遠方に持っていた前妻との間の子、若年期に養子縁組して離縁していた者など、戸籍を遡って初めて発見される相続人候補があります。これらの相続人を欠いたまま遺産分割協議を成立させてしまうと、後日協議が無効となり、やり直しを余儀なくされるリスクがあります。
兄弟姉妹相続では両親の戸籍まで必要
被相続人に子・直系尊属がおらず兄弟姉妹が相続人となる場合、必要な戸籍の範囲が一気に広がります。被相続人本人の戸籍に加えて、被相続人の両親それぞれの出生から死亡までの戸籍を取得し、兄弟姉妹の全員を特定する必要があります。半血兄弟姉妹(父母の一方のみが同じ兄弟姉妹)も相続人となるため、両親の前婚・後婚の状況まで確認することが不可欠です。
広域交付制度の限界に注意
広域交付制度は便利な反面、いくつかの制限があります。司法書士や弁護士等の専門家・代理人は利用できず、本人または直系尊属・直系卑属が自分で窓口に出向く必要があります(郵送請求は不可)。また、コンピュータ化されていない一部の戸籍・除籍は広域交付の対象外とされており、この場合は従来通り本籍地の市区町村役場に郵送等で請求する必要があります(法務省「戸籍法の一部を改正する法律について」参照)。さらに自治体によっては事前予約制であったり、本籍地への内容確認のため当日交付ができず後日再来庁が必要となるケースもあります。広域交付で取得できる範囲を事前に確認することをお勧めします。
法定相続情報一覧図の活用
戸籍を出生から死亡まで揃えた段階で、法務局に「法定相続情報一覧図」の保管申出をしておくと、その後の各種手続(不動産登記・預貯金解約・証券口座の名義変更等)で戸籍一式に代えて1枚で済むようになり、効率が大幅に向上します。
取得した戸籍は原本で保管する
取得した戸(除)籍謄本・改製原戸籍謄本は、原本のまま大切に保管してください。遺産分割協議・調停・審判、不動産登記、預貯金解約等の手続では、写しではなく原本(または法務局発行の法定相続情報一覧図)が証拠として求められます。

