貸家・賃貸アパートの調査はどのようにしたらいいですか?

回答

貸家・賃貸アパート等の収益物件の調査では、不動産そのものの調査(登記事項証明書・名寄帳・固定資産税評価証明書)に加えて、収益物件特有の資料として建物賃貸借契約書・賃料台帳・通帳の賃料入金履歴を確認することが必要です。建物の用途・面積が登記と現況で一致しているか、空室・転貸の有無、敷金・保証金の額などを確認します。また、相続開始後の賃料は、相続財産たる賃貸不動産から生じる法定果実として、各相続人が法定相続分に応じて分割単独債権として取得する(最判平成17年9月8日)ため、調査段階から賃料の帰属・管理状況を整理しておくことが重要です。

目次

調査・手続の概要

貸家・賃貸アパート等(以下まとめて「収益物件」といいます)は、(1)不動産そのものに関する側面と、(2)賃貸借契約による収益発生という側面の両方を持つ財産です。相続調査では、この二つの側面に対応した資料収集が必要となります。

不動産そのものに関する調査は、自用の不動産と基本的に共通します。一方、収益物件特有の調査として、賃貸借契約の内容、賃料の入金状況、敷金・保証金の有無、賃借人の利用実態等を確認する必要があります。

これらの情報は、遺産分割協議や調停において、(1)収益物件の評価(貸家・貸家建付地評価)、(2)相続開始後に発生する賃料の帰属、(3)敷金返還債務などの負債、(4)将来の管理方針(賃貸継続か売却か)等を判断する前提となります。

申請主体・申請先・必要書類

収益物件の調査では、登記・課税情報と契約情報の両方を集める必要があります。各書類の取得先・取得方法は、以下のとおりです。

各書類の取得先

書類取得先備考
登記事項証明書(土地・建物)管轄の法務局/登記情報提供サービス/登記・供託オンライン申請システム建物の地番・家屋番号を事前に把握
公図・建物図面管轄の法務局建物の所在位置・形状の確認
名寄帳(固定資産課税台帳)不動産所在地の市区町村役場(東京23区は都税事務所)単独・共有を問わず一切の不動産で発行依頼
固定資産税評価証明書不動産所在地の市区町村役場(東京23区は都税事務所)評価額・面積・種類の確認
建物賃貸借契約書被相続人の自宅・管理会社・賃借人(契約当事者)全室分を入手
賃料台帳・家賃帳簿被相続人の自宅・管理会社入金状況・滞納の有無を確認
預貯金通帳・取引履歴被相続人が利用していた金融機関賃料入金の有無・金額・パターンを確認
建築確認申請書・建築請負契約書被相続人の自宅・建築会社未登記建物・増改築の確認に有用
都市計画図各市区町村役場の都市計画課/インターネット用途地域・容積率・都市計画道路の予定
管理委託契約書被相続人の自宅・管理会社管理会社経由で運営している場合

申請主体

相続人の一人が単独で請求できます。登記事項証明書は誰でも取得可能、名寄帳・固定資産税評価証明書は相続人としての関係を示す戸籍謄本等の提示が必要です。

法定相続情報一覧図の活用

複数の市区町村・法務局・金融機関に並行請求する必要があるため、法定相続情報一覧図を先に取得しておくと効率的です。

申請の流れ

  1. 物件の特定:まず、被相続人が所有していた収益物件の所在地・地番を把握します。
  2. 不動産情報の取得:特定した物件について、登記事項証明書・公図・建物図面・固定資産税評価証明書を取得します。
  3. 賃貸借契約関係資料の入手:被相続人の自宅・管理会社等から、建物賃貸借契約書(全室分)・賃料台帳・管理委託契約書を入手します。
  4. 賃料入金履歴の確認:被相続人の預貯金通帳・取引履歴から、賃料の入金状況・パターンを確認します。
  5. 現地確認:実際に現地を訪問し、建物の現況・空室の有無・利用状況・周辺道路状況等を写真撮影とともに確認します。

費用の目安は、登記事項証明書1通600円(オンライン申請の場合は安価)、固定資産税評価証明書1件200〜400円、名寄帳1件200〜300円程度です。現地調査の交通費は別途見込んでおきます。

取得した書類で確認すべき項目

登記事項証明書の用途・面積と現況の不一致

登記事項証明書の表題部に記載された建物の種類(用途)と、現況の用途が一致しないことがあります。

読み方のポイント

当初「事務所」として登記された建物が現在は「店舗」として使われている、「居宅」だった建物が賃貸アパートに改装されているなど、登記と現況が一致しないケースは少なくありません。また、登記面積と現況面積に差異がある場合(増改築未登記等)もあります。登記事項証明書と現況、固定資産税評価証明書の面積を相互に突き合わせることで、未登記部分の存在に気づけます。

未登記建物・増改築部分

登記されていない建物や増改築部分があれば、登記事項証明書には現れません。一方、市区町村が課税対象として把握していれば、固定資産税課税台帳(家屋補充課税台帳)には登録されています。

読み方のポイント

登記事項証明書だけでなく、必ず名寄帳・固定資産税評価証明書とセットで確認することが必要です。未登記建物が漏れたまま遺産分割協議を行うと、後日発覚した際にやり直しを迫られるリスクがあります。

建物賃貸借契約書の内容

収益物件特有の調査の中核となる書類です。確認すべき項目は、次のとおりです。

確認項目読み方のポイント
賃借人(契約当事者)個人か法人か、被相続人と特別な関係(親族・知人)がないか
賃料(月額・支払方法)通常の賃料水準か、相場より著しく低くないか
契約期間・更新の有無期間満了後の更新状況、書面の有無、法定更新の場合の条件
敷金・保証金預り金額、解約時の償却条項(例:保証金の10%・20%等を償却)
連帯保証人個人保証人の有無、極度額の定め(改正民法465条の2)
転貸禁止条項転貸の禁止規定とその違反の有無
特約事項賃借人による造作買取請求権の有無等の特殊な合意
読み方のポイント

親族(被相続人の子・きょうだい等)への賃貸で、相場より著しく低額な賃料となっているケースは、税務上「使用貸借」と判定されたり、特別受益として論点化したりすることがあります。全室分の契約書を入手し、賃借人ごとに賃料水準を比較することで、不自然な契約の存在に気づけます。

賃料台帳・通帳入金履歴

実際の賃料入金状況を確認します。

読み方のポイント

契約書記載の賃料と、通帳に入金されている賃料の金額・日付が一致しているかを確認します。滞納の有無、未収賃料の累積、入金の途絶(空室化の兆候)、契約書にない振込先への送金等から、契約書だけでは見えない実態を把握できます。契約書上の名目賃料と実際の入金額が異なる場合は、収益物件の実質収益性を再評価する必要があります。

建物利用者・空室の状況

契約書上の賃借人と、実際に建物を使用している者が一致しているかを確認します。

読み方のポイント

表札・郵便受け・現地での聞き取り等から、(a)空室・空家になっていないか、(b)契約書にない者が使用していないか(無断転貸)、(c)親族が無償で居住していないかを確認します。これらは契約違反の問題であると同時に、税務上の評価(貸家建付地評価の可否)にも影響します。

敷金・保証金の額と性質

預かっている敷金・保証金は、賃借人に返還すべき債務として相続される負債となります。

読み方のポイント

契約書上の敷金・保証金の金額を正確に把握します。解約時に保証金の一部(例:10%・20%)を償却する契約となっている場合、償却部分は将来的に債務とならない点に留意してください。

管理委託契約・管理会社の有無

管理会社が介在している場合は、管理委託契約書・賃料管理報告書から収益物件の管理状況を確認します。

読み方のポイント

管理会社経由で運営されている物件は、賃料が一旦管理会社に集金された後に被相続人の口座へ送金されるため、通帳上は管理会社からの一括送金として表れます。管理会社から賃料管理報告書を取り寄せることで、室別の賃料・空室状況・滞納状況などを網羅的に把握できます。

土地の利用区分(貸家建付地か自用地か)

建物が貸家として使用されている敷地は、相続税評価上「貸家建付地」として評価減の対象になりますが、空き家となっている場合や、新築されたものの未だ賃貸に出されていない場合は、自用地評価となります(ただし、継続的に賃貸されてきた物件の一時的な空室は、退去後速やかに募集している等の要件を満たせば賃貸中として扱われることがあります)。

読み方のポイント

空室状況とあわせて確認します。貸家建付地評価の可否は、課税時期(死亡日)時点で現実に賃貸されているかで判断される点に注意が必要です。

参考リンク

領域機関URL
不動産登記情報(オンライン)一般財団法人民事法務協会登記情報提供サービス
不動産登記事項証明書法務省登記・供託オンライン申請システム
法定相続情報一覧図法務局法定相続情報証明制度(法務局)
固定資産税の証明・名寄帳(東京都23区)東京都主税局固定資産に関する証明等(23区内)(東京都主税局)

固定資産税関係の証明書については、各市区町村のホームページから取得方法・必要書類・手数料を確認できます。

相続トラブルに備えたアドバイス

相続開始後の賃料は法定相続分で各相続人に帰属する

実務上もっとも見落とされやすいのが、相続開始後・遺産分割成立前の賃料の取扱いです。最高裁は、遺産である賃貸不動産から相続開始後・遺産分割までの間に生じた賃料債権は、遺産とは別個の財産であり、各相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得すると判断しています(最判平成17年9月8日)。

つまり、相続開始後に発生する賃料は、遺産そのもの(賃貸不動産)とは別個の財産として、各相続人が法定相続分に応じて取得することになります(なお、相続開始時点で既に発生していた未収賃料は、被相続人が有していた財産として遺産に含まれます)。実務では、(a)賃借人への賃料振込先の連絡をどうするか、(b)遺産分割成立までの間に発生した賃料を誰がどう管理するか、(c)遺産分割で収益物件を取得した相続人と、すでに法定相続分で賃料を受け取った相続人との間の調整、といった問題が生じます。これらは、調査段階から賃料の発生状況・帰属を整理しておくことで、後の協議をスムーズに進められます。

賃借人への通知の段取り

被相続人の死亡後、賃借人は誰に賃料を支払えばよいか分からなくなり、賃料が滞留するケースがあります。契約書を確認した段階で、賃借人(または管理会社)に対し、被相続人の死亡の事実と当面の賃料振込先(法定相続人の代表者口座等)を連絡しておくことをお勧めします。あわせて、遺産分割が成立した時点で改めて新所有者を通知する流れになります。なお、誰を代表者とするか、振込先口座をどうするかは相続人間の合意を要するため、相続人間の関係性が悪い場合には、各相続人が法定相続分に応じて個別に賃借人に請求するという対応も理論上は可能です(前掲・最判平成17年9月8日)。

評価額の取り違えと漏れの両方に注意

収益物件は、登記と現況の不一致、未登記の増改築部分など、漏れや評価誤りが起こりやすい財産類型です。登記事項証明書・名寄帳・固定資産税評価証明書・建築確認申請書を相互に突き合わせることを徹底してください。後日、増改築部分や未登記の付属建物が判明すると、遺産分割協議のやり直しに発展しかねません。

親族間賃貸の特別受益も検討

被相続人が、特定の相続人やその家族に対し、相場より著しく低額な賃料で物件を貸していたケースでは、賃料相当額の差額が特別受益として論点化することがあります。契約書の賃料水準が周辺相場と乖離していないか、賃借人と被相続人の関係性はどうかを整理しておくことが望まれます。

契約違反と評価への影響

無断転貸や親族による無償使用が判明した場合、契約上は解除事由となる可能性がある一方、相続人としては賃貸関係をどう整理するかという経営判断が必要となります。また、空室の取扱いは相続税評価における貸家建付地評価の可否にも影響します。現地確認の段階で、契約書記載の賃借人と実際の使用者が一致しているか、空室がいつから空いているかを確認しておくことが望まれます。

敷金・保証金は返還債務として承継する

敷金・保証金は、賃借人退去時に返還すべき債務として相続人に承継されます(賃貸人たる地位を承継した相続人が負担)。収益物件を遺産分割で取得する相続人は、将来の返還債務の負担も併せて引き受けることになる点を、調査段階で全員が共有しておくことが、後の協議をスムーズにします。

管理コスト・将来の負担も視野に入れる

収益物件は、賃料収入だけでなく、修繕費・固定資産税・管理委託費・空室リスク等、将来の負担も大きい財産です。遺産分割で収益物件を取得する相続人と、現金等を取得する相続人との間で公平を図るためには、これらの将来負担を含めた価値を整理する必要があります。調査段階で、過去数年間の修繕履歴・年間収支(賃料収入−経費)を整理しておくと、後の協議で具体的な議論ができます。

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