共有物分割の判決に基づいて行われる競売(形式的競売)では、不動産に設定されている抵当権は、売却代金から抵当権者への配当を行ったうえで消滅させる方式(消除主義)で処理されるのが原則です(民事執行法195条・59条)。抵当権を残したまま売却する方式(引受主義)が採用されるのは、抵当権者などの利害関係者が合意した場合に限られます。
結論
住宅ローンの担保として設定された抵当権は、形式的競売(共有物分割を実現するために裁判所が命じる競売)でも、原則として消滅します。売却代金からは抵当権者への配当が優先して行われ、抵当権の登記は抹消されます。この処理方式を消除主義といいます。
消除主義をとるか引受主義をとるかは、換価分割を命じる判決の中では決まりません。判決の確定後、形式的競売の申立てを受けた執行裁判所が、売却条件の一つとして判断します。実務では、執行裁判所は原則として消除主義を採用しています。
根拠と条件
条文上は解釈に委ねられている
一般的な競売(債権回収を目的とする競売)では、売却代金から担保権者への配当が優先して行われ、担保権は消滅し、その登記が抹消されます(民事執行法59条)。
これに対し、共有物分割のための形式的競売は、債権回収ではなく、共有物を金銭に換えて共有関係の解消を完了させることを目的とします。民事執行法は、形式的競売について「担保権の実行としての競売の例による」と定めるだけで(同法195条)、担保権の処理に59条を適用するかどうかは規定しておらず、解釈に委ねられています。
消除主義と引受主義
形式的競売における担保権の処理方法は、消除主義と引受主義の二つです。
| 項目 | 消除主義(原則) | 引受主義(例外) |
|---|---|---|
| 抵当権の扱い | 消滅する(登記も抹消) | 存続する |
| 売却代金からの配当 | 抵当権者に優先して配当される | 配当は行われない |
| 買受人の負担 | 抵当権の負担なし | 抵当権の負担を引き受ける |
| 入札への影響 | 通常の競売と同じ | 入札者が少なく、入札金額も低くなる |
引受主義は立法当初は強く提唱されていましたが、買受人の地位が不安定になり、売却に障害が生じることから、現在では賛同する見解は少数にとどまり、実務でも通常は採用されません。最高裁も、換価分割による形式的競売について、消除主義の準用を前提とする判断を示しています(最決平成24年2月7日)。
誰が、いつ決めるのか
共有物分割訴訟と形式的競売は別の手続です。換価分割の判決が確定した後、判決書を提出して競売を申し立てると(東京地方裁判所であれば民事執行センターが窓口です)、執行裁判所が消除主義か引受主義かを売却条件の一つとして判断します。訴訟の判決の中で指定されるものではありません。
例外として抵当権を残す方法
抵当権者や共有者に、従前どおりの分割返済を続けるために抵当権を残したいという希望がある場合には、消除主義の採用を前提としつつ、合意による法定売却条件の変更(民事執行法59条5項)を活用できることがあります。権利の消滅と異なる内容の合意を利害関係者がした場合、執行裁判所はその合意に沿った売却条件を採用します。抵当権を残す場面では、抵当権者のほか、売却金額が下がることになるため所有者である共有者も利害関係者にあたると考えられています。
具体的な場面での適用
AとBが賃貸マンション1棟とその敷地を共有し、建築資金の融資のために土地・建物に銀行の抵当権が設定されているとします。共有物分割訴訟で換価分割の判決が出て形式的競売が行われる場合、原則どおり消除主義がとられれば、売却代金からは銀行への配当が優先して行われ、抵当権は消滅します。配当後の残額が、AとBに持分の割合に応じて交付されます。
一方、銀行とA・Bが抵当権を残すことに合意して引受主義がとられた場合、買受人が抵当権の負担を引き受けるため、入札者は少なく、入札金額も大幅に低くなります。そのため、実質的には共有者であるA・B自身が入札して、最高価を競うことが多くなります。
住宅ローンの残額が不動産の価値を超えている場合(オーバーローン)には、消除主義のもとで競売手続自体が取り消されることがあるという、別の問題が生じます。この点は「共有不動産がオーバーローン状態ですが、それでも共有物分割はできますか?」で解説しています。

