共有者全員が合意すれば、相続税評価額を基準にすることも可能です。しかし、裁判所が賠償分割の代償金を算定する場面では、市場における取引価格(時価)を基礎とするため、相続税評価額(路線価)だけで計算するのは不十分です。路線価は税金計算のための価格であり、時価より低い水準にあるのが一般的です。
結論
共有物分割における不動産の価格算定を相続税評価額(路線価)だけで行ってよいかは、分割の場面によって答えが分かれます。
共有者全員の協議(話し合い)で分割する場合、価格の決め方に法律上の制限はありません。全員が納得すれば、相続税評価額を基準にすることも、それより低い金額を代償金と定めることも自由です。
一方、共有物分割訴訟において裁判所が賠償分割(共有者に債務を負担させて他の共有者の持分を取得させる方法。民法258条2項2号)を命じる場合、代償金の基礎となる「適正な評価額」は市場における取引価格(時価)を意味します。相続税評価額は時価より低い水準に設定された税務上の価格であるため、これだけを基準にすると、持分を手放す共有者が本来の価値に見合わない代償金しか受け取れず、共有者間の実質的公平が確保されません。
根拠と条件
裁判における「適正な評価額」は時価を意味する
賠償分割の一類型である全面的価格賠償(共有者の1人がお金を払って不動産全体を取得する方法)は、かつて最高裁判例により認められていたものが、令和3年民法改正で民法258条2項2号に明文化されました。裁判所がこの方法を選択するには、共有物の価格が適正に評価され、取得者に支払能力があることなどにより、共有者間の実質的公平が害されないことが必要です。
ここでいう適正な評価額とは、競売を前提とした売却代金(卸売価格)ではなく、市場における取引価格、すなわち時価を意味します。この点について、最判平成10年2月27日における河合伸一裁判官の補足意見は、現物取得者が支払うべき金員の額は、共有物の口頭弁論終結時における市場価格を基礎として、競売した場合に対価取得者が取得しうる配当金等の額を下回らないように定められるべきであると述べています。
また、全面的価格賠償では現物取得者が結果的に不動産全体の所有権を取得するため、共有持分の売買で問題となる共有減価(共有であることによる価格低下)は適用しない解釈が一般的です。競売による売却でもないため、競売減価(競売であることによる価格低下)を適用することも否定する見解が一般的です。つまり、減価のない純粋な時価が基準となります。
相続税評価額(路線価)は時価と水準が異なる
相続税評価額と時価の主な違いは次のとおりです。
| 項目 | 時価(市場価格) | 相続税評価額(路線価) |
|---|---|---|
| 目的 | 市場での取引の指標 | 相続税・贈与税の計算 |
| 決定者 | 市場(売買当事者) | 国税庁 |
| 評価水準 | 実際の取引価格 | 公示地価の約8割が目安 |
| 評価時点 | その時点の価格 | 毎年1月1日時点 |
| 個別事情の反映 | 反映される | 標準的な画地を前提とし、限定的 |
路線価は公示地価の約8割を目安に設定されているため、多くの場合、時価より低い金額になります。市況によっては、実際の取引価格と路線価の乖離がさらに大きくなることもあります。したがって、相続税評価額をそのまま代償金算定の基礎にすると、時価との差額の分だけ、持分を手放す共有者に不利な結果となります。
具体的な場面での適用
AとBが土地を2分の1ずつ共有しており、Aが土地全体を取得する全面的価格賠償を行うケースで考えます。
【設例】
相続税評価額(路線価ベース):4,000万円
市場における取引価格(時価):5,000万円
相続税評価額を基準にした場合のBへの代償金:
4,000万円 × 1/2 = 2,000万円
時価を基準にした場合のBへの代償金:
5,000万円 × 1/2 = 2,500万円
差額:500万円
裁判所が全面的価格賠償を命じる場合の基準は時価ですから、この設例でBが受け取るべき代償金は2,500万円が基本となります。訴訟では、当事者間で評価額の主張が対立した場合、不動産鑑定士による鑑定を実施して時価を認定するのが通常です。
協議による分割であれば、AとBが合意する限り、2,000万円やそれ以外の金額を代償金とすることも可能です。ただしその場合も、時価水準を把握したうえで合意するのが適切です。

