亡くなった人に借金があった場合、相続人はどのように負担しますか?
亡くなった人の借金などの相続債務(相続によって引き継ぐ負債)は、遺産分割の対象にはなりません。相続が開始すると同時に、各相続人が法定相続分に応じて当然に分割して負担します(民法896条)。ただし、遺産分割調停では、当事者全員の合意により、相続債務の負担を考慮した分割を行うことができます。
結論
亡くなった人に借金があった場合、その借金は遺産分割によって分け方を決めるのではなく、相続開始と同時に法定相続分(民法900条)の割合に応じて各相続人が当然に承継します。
相続債務は、預貯金や不動産などのプラスの財産(積極財産)とは異なり、マイナスの財産(消極財産)です。遺産分割の対象となるのは積極財産に限られるため、相続債務は原則として遺産分割の対象にはなりません。
根拠と条件
相続債務が遺産分割の対象にならない理由
遺産分割の対象となる財産は、①被相続人の財産であること、②積極財産であること、③未分割であること、という要件を満たす必要があります。
借金などの金銭債務は、消極財産であるため積極財産の要件を満たしません。また、相続開始と同時に法定相続分の割合で当然に分割承継されるため、「未分割」の要件も満たしません(民法896条、最判昭和34年6月19日)。
したがって、相続債務は遺産分割の対象にはならないのが原則です。
調停での取扱い
もっとも、相続債務の負担は積極財産の遺産分割と表裏一体の関係にあり、当事者としては遺産分割と併せて解決したいという要望が強いのが実情です。
遺産分割調停では、相続債務は遺産分割の対象にはならないことを前提としつつも、当事者全員が合意すれば、相続債務の負担を考慮した遺産分割を成立させることができます。たとえば、「申立人が債務目録記載の債務を自己の負担において弁済し、他の当事者には負担させない」といった条項を調停条項に盛り込むことが実務上行われています。
審判での取扱い
これに対し、審判(家庭裁判所が分割方法を決定する手続)では、相続債務を一切取り扱うことができません(家事事件手続法39条・別表第二第12項)。審判では相続債務の分割や承継者を定めることはできず、相続債務を考慮した遺産分割をすることもできません。
調停に代わる審判においても同様に、相続債務の承継や葬儀費用の負担を決めることはできないのが実際の取扱いです。
債権者との関係
調停で相続債務の負担について当事者間で合意した場合でも、債権者はその合意に拘束されません。たとえば、当事者の1名が相続債務を全て承継する代わりに法定相続分を超えて遺産を取得することに合意したとしても、この合意はあくまで当事者間内部の取決めにすぎません。債権者は、法定相続分に応じて各相続人に対し請求することができます。
相続債務を承継することになった当事者以外の相続人が、債権者からの請求に応じて返済をした場合には、当事者間内部の取決めに基づき精算を求めることになります。
具体的な場面での適用
設例: 被相続人Aの相続人が子B・子Cの2名で、遺産として預貯金3,000万円と借入金1,000万円がある場合
この場合、借入金1,000万円は遺産分割の対象にはならず、相続開始と同時にB・Cが法定相続分(各2分の1)に応じて500万円ずつ当然に承継します。遺産分割の対象となるのは預貯金3,000万円のみです。
調停では、Bが借入金1,000万円を全額負担する代わりに預貯金を多めに取得する、といった内容で合意することも可能です。ただし、この合意があっても、債権者はB・Cそれぞれに500万円ずつ請求することができます。

