被相続人が相続人の債務を肩代わりして支払った場合、特別受益として持ち戻しの対象になりますか?

回答

親(被相続人)が相続人の借金を肩代わりして支払った場合、肩代わりした分は相続人に求償(返還請求)できるため、贈与にはあたらず、原則として特別受益にはなりません。ただし、被相続人が求償権を放棄した場合で、肩代わりした金額が高額なときは、生計の資本としての贈与と評価され、特別受益と認められることがあります。

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結論

親(被相続人)が相続人の借金を肩代わりして支払ったとしても、原則として特別受益(被相続人から生前に受けた贈与や遺贈などの特別な利益)には該当しません。

その理由は、債務の肩代わりは法的には「第三者弁済」にあたり、被相続人は肩代わりした金額を当該相続人に対して求償(返還を請求すること)できるからです。求償できる以上、相続人が一方的に利益を受けたとはいえず、贈与とは評価されません。

根拠と条件

原則:求償権があるため贈与にあたらない

被相続人が相続人の債務を肩代わりして支払った場合、被相続人は当該相続人に対して求償権を取得します。求償権が存在する限り、相続人は返済義務を負っていますので、経済的に利益を受けたとはいえません。したがって、贈与にはあたらず、特別受益として持ち戻しの対象にもなりません。

なお、肩代わりの対象となる債務は、事業資金や住宅ローンに限らず、ギャンブルの借金や離婚に伴う慰謝料など、あらゆる種類の債務が含まれます。

この場合、被相続人が持つ求償権は「債権」として遺産の範囲に含まれ、当事者全員の合意により分割対象の遺産とすることができます。

例外:求償権の放棄があり高額な場合

もっとも、被相続人が求償権を放棄した(または相続人の債務を免除した)場合には、結論が異なります。求償権が放棄されると、肩代わりされた金額は実質的に金銭の贈与と同じ意味を持ちます。

この場合、肩代わりした債務の金額が遺産の前渡しといえるほど高額なときは、「生計の資本としての贈与」(民法903条1項)と評価され、特別受益と認められることがあります。

なお、裁判例では、被相続人が身元保証をしていた相続人の夫の勤務先での不祥事について、金銭を支払い、それを同夫に対して求償しなかったことを当該相続人に対する特別受益であるとした事例があります(高松家丸亀支審平成3年11月19日)。

高額かどうかの判断は、肩代わりの金額と遺産総額との比較で決まります。事業に関する借金だけでなく、ギャンブルの借金であっても、求償権が放棄されていれば特別受益になり得ます。

求償権が放棄・免除された場合の遺産上の扱い

求償権が放棄または免除されていた場合、その求償権は相続開始時に存在しないため、遺産の範囲の問題にはなりません。特別受益として持ち戻しの対象となるかどうかの問題として処理されます。

具体的な場面での適用

場面1:事業資金の肩代わり(求償権が存続している場合)

被相続人Aの相続人がB・Cの2名で、遺産が3,000万円のケースを考えます。Aは生前、Bの事業の借金500万円を肩代わりして支払いましたが、Bに対する求償権を放棄していませんでした。

この場合、500万円の肩代わりは特別受益にはなりません。Aが持っていた500万円の求償権は遺産に含まれる債権として扱われ、当事者全員の合意により分割対象とすることができます。

場面2:借金の肩代わり後に求償権を放棄した場合

上記と同じ前提で、AがBに対する求償権を放棄していた場合は、500万円が「生計の資本としての贈与」と評価される可能性があります。遺産総額3,000万円に対して500万円は相当の割合を占めるため、特別受益と認められる可能性が高いといえます。

場面3:訴訟上の和解で求償権が放棄された場合

被相続人が相続人に対して求償を求める訴訟を提起し、和解によって求償権の全部または一部を放棄した場合にも、特別受益にあたると主張されることがあります。ただし、訴訟上の和解は双方の譲歩に基づくものであるため、高額の求償権が放棄されたからといって直ちに特別受益に該当するとは限らず、個別の事情を踏まえた検討が必要です。

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