被相続人がどこに不動産を持っていたか分からない場合、どのように調査したらいいですか?

回答

令和8年2月2日から運用開始された「所有不動産記録証明制度」(不動産登記法119条の2)により、相続人は全国の登記情報から被相続人名義の不動産を一覧化した証明書を取得できます。ただし、登記簿上の氏名・住所と検索条件が一致しない不動産、未登記建物、登記簿がコンピュータ化されていない不動産などは抽出されないため、(1)所有不動産記録証明書、(2)固定資産税納税通知書、(3)市区町村ごとの名寄帳(地方税法387条)、(4)登記事項証明書、(5)確定申告書、(6)預貯金の引落履歴、(7)権利証類・郵便物などを組み合わせて網羅的に把握することが基本です。漏れた不動産が後に発覚すると、遺産分割協議のやり直しを余儀なくされるリスクがあります。

目次

調査・手続の概要

従来、被相続人の所有不動産は、市区町村ごとの固定資産税納税通知書・名寄帳と法務局の登記事項証明書をそれぞれ突き合わせるしかなく、全国の不動産を網羅的に把握する制度は存在しませんでした。これに対し、令和6年4月の相続登記義務化を契機に、令和8年2月2日から「所有不動産記録証明制度」(不動産登記法119条の2)が施行され、相続人は全国の登記情報から被相続人名義の不動産を一覧化した証明書を取得できるようになりました。実務上は「全国版名寄帳」とも呼ばれます。

ただし、所有不動産記録証明制度には後述のとおり重要な限界があり、これ単独で完全な網羅性は得られません。そのため、相続調査では引き続き複数の資料を組み合わせる必要があります。主要な手がかりとなるのは、次の7種類です。

資料何が分かるか限界(漏れやすい点)
所有不動産記録証明書被相続人が登記名義人となっている全国の不動産を一覧化(令和8年2月2日施行)登記簿上の氏名・住所と検索条件が一致しない不動産は抽出されない/未登記建物は対象外/登記簿がコンピュータ化されていない不動産は対象外
固定資産税納税通知書その市区町村に所有する課税対象の不動産一覧(課税明細書)1月1日基準のため年内取得・売却分は反映されない/非課税不動産は載らない
名寄帳(地方税法387条)市区町村ごとの所有不動産一覧(共有・未登記を含む)市区町村ごとの請求が必要/非課税・免税点未満は載らない場合あり
登記事項証明書個別物件の権利関係(所有者・持分・抵当権等)物件の所在地番が分かっていることが前提
確定申告書(控)不動産所得・固定資産税の経費計上から賃貸物件等を把握申告義務のない不動産は記載されない
預貯金の引落履歴固定資産税・管理費・地代等の引落しから不動産の存在を推認現金納付・口座振替なしの場合は手がかりにならない
自宅内の権利証・郵便物過去の登記識別情報通知・登記済証、固定資産税通知、管理組合通知等同居相続人による処分・廃棄のリスク

これらの資料は、それぞれ異なる切り口からの情報を提供します。所有不動産記録証明書は登記簿ベース、名寄帳・固定資産税納税通知書は市区町村の課税台帳ベースで、抽出される不動産の範囲が異なります。両者を組み合わせて初めて、登記済みの不動産から未登記建物・非課税不動産まで網羅できます。

申請主体・申請先・必要書類

各資料の取得元と主な必要書類は、次のとおりです。

資料取得元・取得方法主な必要書類
所有不動産記録証明書全国の法務局・地方法務局(支局・出張所を含む)で書面又はオンライン請求印鑑証明書又は本人確認書類の写し、被相続人との相続関係を証する情報(戸籍謄本・法定相続情報一覧図の写し等)、過去の氏名・住所を検索条件とする場合は除籍謄本・戸籍の附票の写し等
固定資産税納税通知書被相続人宛に毎年4〜6月に郵送(自宅で発見)(発見すれば不要)
名寄帳各市区町村役場の固定資産税課(東京23区は都税事務所)被相続人の死亡を確認できる戸籍謄本、申請者と被相続人の関係を示す戸籍謄本、本人確認書類、(法定相続情報一覧図)
登記事項証明書法務局窓口・郵送・登記・供託オンライン申請システム物件の所在地番(地番は住居表示と異なる)
登記情報(オンライン閲覧)登記情報提供サービス利用者登録(個人利用可)
確定申告書(控)自宅で発見/被相続人の所轄税務署に対する閲覧申請(国税庁の申告書等閲覧サービス)被相続人の戸籍謄本、申請者と被相続人の関係を示す戸籍謄本、本人確認書類
預貯金の取引履歴各金融機関(共同相続人の一人が単独で請求可)被相続人の戸籍謄本、申請者と被相続人の関係を示す戸籍謄本、本人確認書類

法定相続情報一覧図を先に取得しておくと、戸籍謄本一式の代わりに1枚で足りる窓口がほとんどです。複数の機関に並行請求する場合に効率が大きく上がります。

申請の流れ

実務的には、次の順序で進めるのが効率的です。所有不動産記録証明書を早期に取得することで、その後の調査範囲を絞り込むことができます。

ステップ1:自宅にある資料の確認

最初に、被相続人の自宅にある以下の資料を確認します。

  • 直近の固定資産税納税通知書(複数の市区町村から届いていないかを確認)
  • 登記識別情報通知・登記済証(いわゆる権利証)
  • 確定申告書の控え(過去3〜5年分)
  • 不動産関係の契約書(売買契約書、賃貸借契約書、借地契約書、管理委託契約書等)
  • 不動産会社・管理会社・税理士事務所からの郵便物

同居相続人がいる場合、これらの書類を処分される前に確保しておくことが重要です。

ステップ2:所有不動産記録証明書の請求

法務局に対して、所有不動産記録証明制度に基づく証明書の交付を請求します。これにより、被相続人が登記名義人となっている全国の不動産が一覧化されます。

請求は全国どの法務局でも可能で、オンライン請求(登記・供託オンライン申請システム)にも対応しています。請求から交付までの所要期間は登記所により異なりますが、制度開始当初は2週間程度を見込んでおく必要があります。

被相続人が改姓・転居の経歴を持つ場合は、検索条件に過去の氏名・住所を追加することが重要です。検索条件と登記簿上の氏名・住所が一致しないと抽出されないため、漏れを防ぐためには改姓・転居の履歴を網羅した検索条件を指定する必要があります。

ステップ3:固定資産税納税通知書・名寄帳との突合

所有不動産記録証明書だけでは、未登記建物・非課税不動産・登記簿がコンピュータ化されていない古い不動産が拾えません。そこで、ステップ1で発見した固定資産税納税通知書に対応する市区町村のほか、被相続人の本籍地・出身地・過去の転居先など関係のある市区町村に対し、名寄帳を請求します。

各市区町村への並行請求は郵送でも対応可能で、手数料は1市区町村あたり200〜400円程度が一般的です(自治体により異なり、所有物件数に応じて枚数加算がある場合もあります)。複数の市区町村に同時並行で送ることで、1〜2週間程度ですべての結果が揃います。

ステップ4:登記事項証明書による権利関係の確認

所有不動産記録証明書・名寄帳・納税通知書で所在地番が判明した不動産については、登記事項証明書を取得し、権利関係(所有者・持分・抵当権の有無等)を確認します。

ステップ5:確定申告書・預貯金履歴での確認

不動産所得を申告していた場合や、固定資産税が口座振替になっていた場合は、確定申告書(控)・預貯金の取引履歴からも不動産の存在が推認できます。

所要期間と費用

作業所要期間費用の目安
自宅資料の確認即日〜数日0円
所有不動産記録証明書の請求即日〜2週間程度検索条件1件×1通あたり、書面1,600円/オンライン郵送1,500円/オンライン窓口1,470円
名寄帳請求(郵送)1〜2週間1市区町村あたり200〜400円程度(自治体・物件数による)
登記事項証明書取得即日〜数日(オンライン)1通あたり490〜600円(請求方法による。※最新情報は法務省ホームページを要確認)
確定申告書の閲覧申請1〜2週間無料(写しが必要な場合は別途、保有個人情報開示請求の手数料300円)

合計で1か月前後、数千円~1万円程度の費用で網羅調査が完了するのが通常です。なお、所有不動産記録証明書は検索条件ごとに手数料が加算されるため、被相続人に改姓・転居歴がある場合は、検索条件を複数指定すると費用が積み上がる点に注意します(例:検索条件4件×1通=書面請求で6,400円)。

各資料で確認すべき項目

所有不動産記録証明書

所有不動産記録証明書は、被相続人が所有権の登記名義人として記録されている全国の不動産を一覧化したものです。従来は市区町村ごとの名寄帳を個別に取得するしかなかったところ、本制度により全国一括での把握が可能となりました。

調査のポイント

証明書に記載された不動産の所在・地番・家屋番号を、市区町村ごとに整理し、ステップ4の登記事項証明書取得につなげます。

重要な限界:所有不動産記録証明書には次の限界があり、これだけで網羅できたと判断するのは危険です。

限界内容
氏名・住所の検索一致が前提登記簿上の氏名・住所と検索条件が一致しないと抽出されません。被相続人が改姓・転居している場合は、過去の氏名・住所も検索条件として指定する必要があります
未登記建物は対象外所有権の登記がされている不動産のみが対象であり、未登記建物や表示の登記のみの不動産は抽出されません
コンピュータ化されていない登記簿は対象外登記簿がコンピュータ化されていない不動産は抽出されません
同名異人の不動産が混入する可能性検索条件が一致する同名異人の不動産も抽出されることがあるため、本当に被相続人のものかを別途確認する必要があります
検索時点で未反映の登記申請は含まれない審査中の登記申請がある場合の情報は反映されません

これらの限界をカバーするため、名寄帳・固定資産税納税通知書による補完が引き続き必要です。

固定資産税納税通知書(課税明細書)

毎年4〜6月頃に被相続人宛に送付される通知書には、その市区町村に所有する不動産の課税明細書が添付されています。1月1日時点の登記情報に基づくため、年内に取得した不動産は反映されない点に注意します。

調査のポイント

通知書を複数の自治体から受け取っていれば、被相続人がその数だけの市区町村に不動産を所有していたことになります。なお、非課税不動産(墓地・公衆用道路等)や免税点未満の不動産は通知書に記載されないため、通知書だけで網羅したと判断するのは危険です。

名寄帳

名寄帳は、その市区町村が所有者ごとに不動産情報を一覧化した帳簿で(地方税法387条)、固定資産税納税通知書よりも網羅性が高いのが特徴です。共有不動産・未登記建物・固定資産税が課されない不動産も含めて記載されることがあります。所有不動産記録証明書では拾えない未登記建物を補完する役割が大きいといえます。

調査のポイント

申請時に「単独・共有を問わず一切の不動産」について発行を依頼することが重要です。単独所有のみの名寄帳しか取得していないと、共有不動産が漏れることがあります。また、評価額と課税標準額が併記されている場合、両者を混同しないように注意します。

登記事項証明書

所有不動産記録証明書・名寄帳・納税通知書で所在地番が判明した不動産については、登記事項証明書で権利関係を確認します。

調査のポイント

表題部(所在・地目・地積)、甲区(所有権の履歴)、乙区(抵当権・差押等)の各欄を確認します。特に甲区で持分が記載されている場合、共有関係と持分割合を看過しないように注意します。

確定申告書(控)

不動産所得・事業所得の申告があれば、賃貸物件・事業用不動産の存在が分かります。固定資産税は不動産所得・事業所得の必要経費として計上されているため、申告書の収支内訳書・青色決算書を確認することで、保有する不動産の所在・規模を把握できる場合があります。

調査のポイント

過去5年分程度の申告書を確認すると、年度ごとの動きから売却・取得の履歴も読み取れます。被相続人が申告書(控)を保管していない場合は、税務署に対する閲覧申請(国税庁が事務運営指針に基づき実施する「申告書等閲覧サービス」)で取得可能です。閲覧は無料ですが、写しの交付は受けられないため、必要事項のメモまたは令和元年9月以降に認められた写真撮影で記録します。なお、写しが必要な場合は、別途、保有個人情報開示請求(個人情報の保護に関する法律76条等)を行うことになります。

預貯金の取引履歴

被相続人の通帳・取引履歴で、固定資産税・都市計画税・管理費・地代等の定期的な引落しがないかを確認します。

調査のポイント

自治体名義での引落しがあれば、その自治体に不動産を所有していた可能性が高いといえます。マンション管理組合・賃貸物件管理会社への支払いがあれば、それぞれ区分所有マンション・賃貸物件(自己使用ではなく他者所有物件の借主としての可能性も含む)の存在が推認できます。

権利証類・郵便物・契約書

登記識別情報通知・登記済証(いわゆる権利証)は、その物件の所有者として登記されたことを示す書類で、被相続人が現在も所有しているか過去に取得・処分した物件の特定に役立ちます。

調査のポイント

権利証は売却後も手元に残っていることがあるため、権利証があるからといってその物件が現存する遺産とは限りません。必ず登記事項証明書の現在の所有者欄と突き合わせて、現時点の所有者を確認します。また、不動産会社・管理会社・賃借人・税理士事務所からの郵便物は、生前の不動産取引や賃貸経営の手がかりとなります。

参考リンク

機関案内ページ
法務省(所有不動産記録証明制度)所有不動産記録証明制度について
法務省(登記手数料・登記事項証明書)登記手数料について
法務局(オンライン請求)登記・供託オンライン申請システム
一般財団法人民事法務協会(登記情報のオンライン閲覧)登記情報提供サービス
法務局(法定相続情報一覧図)法定相続情報証明制度のご案内
国税庁(申告書等閲覧サービス)申告書等閲覧サービスの実施について(事務運営指針)

各市区町村の名寄帳の請求方法は、「(自治体名) 名寄帳」で検索することで各自治体の公式案内ページにたどり着けます。

相続トラブルに備えたアドバイス

所有不動産記録証明書だけで網羅したと判断しない

令和8年2月2日施行の所有不動産記録証明制度は、不動産調査の大きな前進ですが、これだけで網羅できたと判断するのは危険です。未登記建物・登記簿上の氏名や住所が一致しない不動産・コンピュータ化されていない登記簿は抽出されません。所有不動産記録証明書を起点としつつ、名寄帳・固定資産税納税通知書・自宅資料との突き合わせを行うことをお勧めします。

改姓・転居歴のある被相続人は検索条件の指定に注意

所有不動産記録証明制度は、検索条件と登記簿上の氏名・住所が一致する不動産しか抽出しないため、被相続人に婚姻・離婚等による改姓履歴、複数の転居履歴がある場合は、過去の氏名・住所も検索条件として明示的に追加する必要があります。除籍謄本・戸籍の附票の写し等を準備した上で、検索条件を網羅的に指定するようにしてください。検索条件の指定漏れにより、被相続人が独身時代の旧姓で取得した不動産や、転居前の住所で登記された不動産が抽出されないケースは十分に起こり得ます。

遠隔地・地方の不動産の漏れに備える

所有不動産記録証明制度の導入により、地方の不動産も全国一括で抽出されるようになりましたが、未登記建物・古い登記簿(コンピュータ化されていないもの)は依然として個別調査が必要です。先祖代々の山林・原野・農地、転居前に処分し忘れた小規模な宅地、共有名義になっている遠隔地の土地などは、相続人がそもそも存在を知らないケースもあります。被相続人のライフヒストリー(本籍地・転居歴・両親や祖父母の出身地)を辿り、関連する市区町村すべてに名寄帳を請求することが望まれます。

共有持分・未登記建物の漏れに注意

共有持分は登記事項証明書で確認しないと持分割合まで判明しません。また、未登記建物は所有不動産記録証明書・登記情報からは把握できず、名寄帳でのみ確認できることがあります共有不動産・未登記建物は遺産分割協議で最も漏れやすい類型であるため、各資料の確認段階で意識的にチェックしてください。

不動産漏れによる協議のやり直しリスク

遺産分割協議は、原則として遺産の全体像を踏まえて成立させるものです。協議成立後に重要な不動産が発覚した場合、漏れていた不動産について別途協議が必要となるだけでなく、その存在を前提として協議内容そのものを見直さなければならないことがあり、結果として全部または一部のやり直しを余儀なくされるリスクがあります。

特に、相続人間の関係が良好でない場合や、すでに遺産の分け方をめぐって対立が生じている場合は、追加で発覚した不動産が新たな火種となり、調停・審判に発展することも珍しくありません。協議に着手する前の段階で、可能な限り網羅的な調査を完了させておくことが、後日の蒸し返しを防ぐ最も効果的な手段です。

同居相続人による書類処分のリスク

固定資産税納税通知書・権利証・確定申告書(控)などは、被相続人と同居していた相続人が物理的に管理していることが多く、他の相続人に開示されないまま処分されてしまうリスクがあります。ただし、書類が手元になくても、所有不動産記録証明書・名寄帳・登記情報・税務署の閲覧申請・金融機関の取引履歴照会など、第三者機関への直接照会で同等の情報は取得可能ですので、書類の引渡しに固執せず、並行して第三者機関への照会を進めることをお勧めします。

生前贈与により名義変更された不動産の確認

被相続人が生前に子や配偶者に名義変更していた不動産は、現在の登記名義人が被相続人ではないため、所有不動産記録証明書・名寄帳・固定資産税納税通知書のいずれにも載りません。しかし、こうした生前贈与は特別受益として遺産分割で論点化することが多い類型です。過去の登記履歴・贈与税申告書・預貯金の出金履歴を組み合わせて、生前の名義変更の有無を別途確認することをお勧めします。

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