限定承認と相続放棄の違いは何ですか?どちらを選ぶべきですか?

回答

限定承認とは、相続した財産の範囲内で被相続人の債務を弁済し、余りがあれば相続できる制度です(民法922条)。相続放棄とは、相続人の地位を全面的に放棄し、最初から相続人でなかったものとして扱われる制度です(民法938条、939条)。いずれも原則として相続の開始を知ったときから3か月以内に家庭裁判所へ申述する必要があります(民法915条1項)。

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それぞれの意味

相続が開始すると、相続人は被相続人の一切の権利義務を承継します。もっとも、民法は相続人に対し、相続を承認するか放棄するかの選択の自由を認めています(民法915条)。

限定承認(相続した財産の範囲内で債務を弁済し、残りがあれば相続する方法)とは、被相続人にどの程度の債務があるかわからない場合などに、相続財産を限度として債務を弁済するという条件付きで相続を承認する制度です(民法922条)。限定承認をすると、相続人は相続債務の全額を承継しますが、相続財産を限度とする物的有限責任を負うにとどまり、自己固有の財産から弁済する必要はありません(責任なき債務)。相続人の固有財産と相続財産が分離して取り扱われる点に特徴があります。

相続放棄(相続人の地位そのものを放棄する方法)とは、相続開始による包括承継の効果を全面的に拒否する意思表示です(民法938条)。相続放棄をした人は、その相続に関しては最初から相続人にならなかったものと扱われます(民法939条)。プラスの財産もマイナスの財産(債務)も一切承継しません。

限定承認と相続放棄の違い

比較項目限定承認相続放棄
根拠条文民法922条民法938条
効果相続財産の範囲内で債務を弁済(物的有限責任)最初から相続人でなかったものとみなされる
プラスの財産債務弁済後の残余があれば取得できる一切取得できない
マイナスの財産(債務)相続財産の限度で責任を負う一切負担しない
申述先家庭裁判所家庭裁判所
期間相続開始を知ったときから3か月以内(民法915条1項)相続開始を知ったときから3か月以内(民法915条1項)
申述の方式相続人全員で共同して行う必要がある(民法923条)各相続人が単独で行うことができる
代襲相続への影響なし代襲相続の原因にならない(放棄者の子は代襲しない)
他の相続人への影響他の相続人の相続分に直接の影響はないQ20で詳述
清算手続の要否必要(相続財産の清算手続を行う)不要

比較表で特に重要な違いは、「相続人の地位」と「申述の方式」の2点です。

相続放棄をすると最初から相続人でなかったものとみなされるため、プラスの財産を含め一切の権利義務を承継しません。これに対し、限定承認では相続人としての地位は維持されますが、債務の責任が相続財産の範囲に限定されます。したがって、限定承認の場合、相続財産から債務を弁済した後に残余があれば、それを取得することができます。

また、限定承認は相続人全員で共同して行わなければなりません(民法923条)。相続人の一部だけが限定承認をすることはできず、他の相続人全員の協力が必要です。一方、相続放棄は各相続人が単独で行うことができるため、他の相続人の意向に関わらず手続を進められます。

さらに、相続放棄の効力は絶対的であり、不動産の場合、登記なくしてその効力を第三者に対しても主張できます。また、相続放棄は代襲相続(被相続人より先に相続人が亡くなっている場合にその子が代わりに相続すること)の原因にはなりません。放棄者に子がいても、その子が放棄者を代襲して相続することはできません。

なお、限定承認をした場合には、相続財産について清算手続を行う必要があり、相続債権者に対しては相続財産をもって弁済することになります(民法929条)。この手続は実務上煩雑であり、限定承認の利用が少ない一因とされています。

どちらを選ぶべきか(判断基準)

限定承認と相続放棄のどちらを選ぶかは、被相続人の財産状況と相続人の意向によって判断します。

被相続人の債務が明らかに財産を上回る場合や、相続に一切関わりたくない場合には、相続放棄が適しています。単独で行うことができ、手続も比較的簡便です。

一方、被相続人の財産と債務のどちらが多いか不明な場合には、限定承認を選択する実益があります。限定承認であれば、最終的に債務が財産を上回っていたとしても、相続人が自己固有の財産から弁済する必要はありません。逆に、財産が債務を上回っていれば、残余を取得することができます。

ただし、限定承認は相続人全員で共同して行う必要があるため(民法923条)、相続人の一部が単純承認を希望している場合や、相続人間の連絡が困難な場合には、事実上利用が難しいことがあります。

なお、いずれの手続も、原則として相続の開始を知ったときから3か月(熟慮期間(じゅくりょきかん))以内に行わなければなりません(民法915条1項)。この期間内に限定承認も相続放棄もしなかった場合には、単純承認(被相続人の権利義務を全面的に承継すること)をしたものとみなされます(法定単純承認。民法921条2号)。

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