被相続人の遺産を調査する方法はありますか?手順と必要書類を教えてください
遺産分割を行うには、被相続人(亡くなった方)がどのような財産を持っていたかを調べる「遺産調査」が必要です。不動産は名寄帳(なよせちょう)や登記記録、預貯金は金融機関の残高証明書、株式は証券会社への照会などにより調査します。調査の結果は遺産目録にまとめ、遺産分割協議や調停の基礎資料とします。
遺産調査の概要
遺産調査とは、被相続人が相続開始時に所有していた財産を網羅的に把握するための調査です。
遺産分割の対象となる財産は、①被相続人が相続開始時に所有し、②現在(分割時)も存在する、③未分割の、④積極財産です。遺産調査は、この①の要件、すなわち「被相続人にどのような財産があったか」を確定するための作業にあたります。
遺産調査が不十分なまま遺産分割を進めると、後から新たな財産が見つかって分割をやり直す必要が生じたり、一部の相続人に財産が隠されたまま不公平な分割が成立してしまうおそれがあります。遺産分割調停を申し立てる場合には、申立書に遺産目録を添付する必要があり(家事規則127条、102条1項)、そのためにも事前の遺産調査が不可欠です。
調査の対象となる主な財産は、不動産(土地・建物)、預貯金、株式・投資信託、生命保険、現金、自動車、貸金庫の内容物、債権などです。
遺産調査の準備
調査に必要な前提書類
遺産調査を始めるにあたっては、以下の書類をあらかじめ取得しておくと手続が円滑に進みます。
- 被相続人の死亡が確認できる戸籍謄本(除籍謄本):金融機関や法務局での照会に必要です
- 相続人であることを証明する戸籍謄本:相続人の立場で照会を行うために必要です
- 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票:不動産の所在地の確認などに使用します
これらの書類があれば、相続人の立場で各機関に対して被相続人名義の財産の有無を照会することができます。
手がかりとなる資料
被相続人の自宅に残された以下のような資料が、財産の手がかりになります。
- 固定資産税の納税通知書(不動産の所在が分かります)
- 預貯金通帳・キャッシュカード(金融機関・支店名が分かります)
- 証券会社からの取引報告書・配当通知書(株式・投資信託の存在が分かります)
- 保険証券・保険会社からの通知書(生命保険の内容が分かります)
- 確定申告書の控え(不動産所得や配当所得などから財産の存在が推定できます)
- 自動車検査証(車検証)(自動車の特定に使用します)
- 貸金庫の契約書・鍵(貸金庫の存在が分かります)
遺産調査の流れ
STEP1:不動産の調査
不動産の調査は、被相続人の最後の住所地の市区町村で名寄帳(固定資産課税台帳の写し)を取得することから始めます。名寄帳には、その市区町村内にある被相続人名義の土地・建物が一覧で記載されています。
名寄帳で不動産の所在が判明したら、法務局(不動産登記部門)で登記記録(登記事項証明書または登記簿謄本)を取得し、所在・地番・地目・地積(土地の場合)や所在・家屋番号・種類・構造・床面積(建物の場合)を正確に確認します。
不動産の調査では、以下の点に注意が必要です。
- 私道の見落とし:建物とその敷地には意識が向きますが、私道は気付かずに分割対象から抜け落ちることがあります。名寄帳や登記記録の共同担保目録等から、私道の有無を確認することが重要です
- マンションの敷地権・共用部分:敷地権化していない土地やマンションの共用部分が抜け落ちることがあります
- 未登記建物:登記されていない建物がある場合は、固定資産評価証明書の記載で確認します
- 複数の市区町村にまたがる不動産:被相続人の住所地以外にも不動産がある場合は、各市区町村で名寄帳を取得する必要があります
STEP2:預貯金の調査
預貯金は、金融機関名、支店名、預貯金の種類、口座番号により特定します。
被相続人が利用していた金融機関が判明している場合は、その金融機関に対して残高証明書の発行を請求します。残高証明書は、同一金融機関の同一支店で基準日時点のすべての預貯金が漏れなく記載されるため、通帳の写しよりも裏付け資料として適しています。
利用金融機関が不明な場合は、自宅に残された通帳やキャッシュカード、郵便物などから推定するほか、心当たりのある金融機関に順次照会を行います。
なお、信用金庫・農業協同組合等に預貯金がある場合は、出資金が併せて存在することがあります。出資金を取得しないと預貯金の払戻し等に応じてもらえないこともあるため、残高証明書を取得する際に出資金の有無も確認しておくことが重要です。
STEP3:株式・投資信託の調査
株式は、会社名、株式数、取扱証券会社・支店名で特定します。投資信託は、商品名、口数、取扱証券会社・支店名で特定します。
被相続人が利用していた証券会社が判明している場合は、証券会社に対して残高証明書の発行を請求します。
利用証券会社が不明な場合は、配当通知書や取引報告書などの郵便物から推定するほか、証券保管振替機構(ほふり)に対して、被相続人名義の口座の開設先を照会する方法があります。
なお、投資信託は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となります(最三小判平成26年2月25日)。
STEP4:生命保険の調査
生命保険は、保険会社、保険の種類、証券番号で特定します。被相続人が契約者となっている保険がある場合は、保険証券や保険会社発行の明細書等を確認します。
被相続人がどの保険会社と契約していたか不明な場合は、生命保険契約照会制度を利用することで、被相続人名義の生命保険契約の有無を一括で照会することができます。

なお、死亡保険金は、原則として保険金受取人の固有財産であり、遺産分割の対象にはなりません(最三小判昭和40年2月2日)。ただし、保険契約の内容によっては分割対象の遺産となる場合もあるため、保険証書等で契約内容を確認することが重要です。
STEP5:その他の財産の調査
- 現金:金額と保管者により特定します。被相続人の自宅等に保管されている現金を確認します
- 自動車:自動車検査証(車検証)の記載に従い、登録番号・車名・型式・車台番号で特定します
- 貸金庫:被相続人が貸金庫を利用していた場合、内容物も遺産に含まれる可能性があります。貸金庫の開扉には原則として相続人全員の協力が必要です
- 債権:被相続人が他者に貸し付けていた貸付金などがある場合は、債務者・債権額・債権の種類で特定します
- 動産(美術品・貴金属等):一点物の美術品や貴金属類は、作者名・題名・大きさ等で特定し、写真を添付することが多いです
STEP6:遺産目録の作成
調査で判明した財産を、遺産目録としてまとめます。遺産目録は、遺産分割協議書の作成や、調停申立書への添付に使用する重要な書類です。
遺産目録には、各財産について、現実に取得できるよう、遺産の種類に応じた必要事項を正確に記載します。裏付けとなる資料(登記事項証明書、残高証明書等)を併せて保管しておくことが望ましいです。

