共有不動産に住んでいる共有者に対して、他の共有者は原則として明渡しを請求できません(民法249条1項)。ただし、住んでいない共有者は、自己の持分に応じた使用対価(家賃相当額)を請求できます(民法249条2項)。共有状態そのものの解消は、遺産分割が済んでいない場合は遺産分割の手続、遺産分割や遺言で持分が確定した場合は共有物分割の手続によります。
結論
相続した実家に兄弟の1人だけが住んでいる場合、住んでいない兄弟がとりうる法的な手段は、次の3つに整理できます。
第1に、住んでいる兄弟に対する使用対価(家賃相当額)の金銭請求です。民法249条2項に基づき、原則として認められます。これは遺産共有・通常の共有のどちらの場合でも同じです。
第2に、共有状態そのものの解消です。金銭請求では共有状態は解消されないため、根本的な解決にはこちらが必要になります。手続は、遺産分割が済んでいるかどうかで異なります。
第3に、明渡し(立ち退き)の請求ですが、これは原則として認められません。各共有者は共有物の全部について持分に応じた使用をする権利を有しており(民法249条1項)、住んでいる兄弟にも自己の持分に基づく使用権があるためです。
なお、最高裁は、持分の過半数を有する共有者であっても、共有物を単独で占有する他の共有者に対して当然には明渡しを請求できないと判断しています(最判昭和41年5月19日)。
根拠と条件
明渡請求が原則として認められない理由
民法249条1項は「各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる」と定めています。「全部について」とは、持分が3分の1であっても共有物全体を使用できるという意味です。
したがって、実家に住んでいる兄弟は、たとえ持分が少数であっても、自己の共有持分に基づく使用権を有しており、これが占有の権原となります。他の兄弟が持分割合で上回っていても、それだけでは明渡しを請求する理由にはなりません。
このルールは、遺産分割前の遺産共有にもあてはまります。相続財産は相続人の共有に属し(民法898条1項)、この共有にも民法の共有に関する規定が適用されるためです(民法898条2項参照)。
ただし、次のような場合には、例外的に明渡請求が認められることがあります。
- 共有持分の過半数で使用方法を決定し、住んでいる兄弟以外の共有者が使用すると定めた場合(民法252条1項)
- 占有の開始が実力行使によるなど、極めて不公正な方法であった場合
金銭請求(使用対価の請求)ができる理由と例外ケース
令和3年(2021年)の民法改正で新設された民法249条2項は、共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対して自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負うと定めています。
請求できる金額は、実務上、その不動産の賃料相当額に請求する共有者の持分割合を乗じた金額とすることが多いです。
【計算例】
賃料相当額:月額15万円
請求する兄弟の持分割合:1/3
請求できる金額:15万円 × 1/3 = 月額5万円
なお、最高裁は、令和3年改正の前から、共有物を単独で占有する共有者に対して、他の共有者は持分割合に応じた不当利得金または損害賠償金の支払を請求できると判断しています(最判平成12年4月7日)。改正により、この金銭請求は民法249条2項の償還請求権として明文化されました。
なお、使用対価の具体的な算定方法には複数の考え方があります。
ただし、例外的に金銭請求ができない場合があります。代表的なのは、遺産分割が済んでいない状態で、住んでいる兄弟が亡くなった親(被相続人)と同居していたケースです。
最高裁は、共同相続人の1人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物に被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、相続開始時から遺産分割時までを存続期間とする使用貸借契約(ただで使ってよいという合意)の成立が推認されると判断しています(最判平成8年12月17日)。
使用貸借が推認されると、住んでいる兄弟は無償で使用する権原を有することになるため、遺産分割が完了するまでの間、他の兄弟は使用対価を請求できません。
共有状態の解消方法
共有状態そのものを解消する手続は、遺産共有か通常の共有かで次のように異なります。
| 遺産分割が済んでいない場合(遺産共有) | 遺産分割・遺言で持分が確定した場合(通常の共有) | |
|---|---|---|
| 解消の手続 | 遺産分割(協議・調停・審判) | 共有物分割(協議・訴訟) |
| 根拠条文 | 民法907条 | 民法256条1項・258条1項 |
| 共有物分割請求 | できない(民法258条の2第1項) | できる |
| 手続を行う裁判所 | 家庭裁判所 | 地方裁判所等 |
遺産分割が済んでいない場合、共同相続人間の共有解消は遺産分割の手続によることとされており、共有物分割請求をすることはできません(民法258条の2第1項)。
これに対して、遺産分割によって実家を兄弟の共有とすることが決まった場合や、遺言によって各自の持分が確定した場合は、通常の共有となります。この場合、各共有者はいつでも共有物の分割を請求することができ(民法256条1項)、協議が調わないとき、または協議をすることができないときは、裁判所に分割を請求することができます(民法258条1項)。
具体的な場面での適用
設例1:遺産分割が済んでいない場合(遺産共有)
父が遺言を残さずに亡くなり、長男A・次男B・三男Cが実家の土地・建物を相続したものの、遺産分割協議がまとまらないまま、長男Aだけが実家に住み続けているとします。
この場合、B・Cは、Aに対して使用対価(家賃相当額のうち法定相続分に応じた各3分の1)を請求できます。共有状態の解消は、遺産分割協議を進め、まとまらなければ家庭裁判所の調停・審判を利用することになります。Aへの明渡請求は、原則としてできません。
なお、亡くなった父とAが同居していた場合には、使用貸借の推認により、遺産分割が完了するまでの間は金銭請求ができないことがあります。
設例2:遺言で持分が確定した場合(通常の共有)
父が「実家の土地・建物を長男A・次男B・三男Cに各3分の1の割合で相続させる」という遺言を残して亡くなり、3人が各3分の1の持分を取得したうえで、長男Aだけが実家に住み続けているとします。
この場合も、B・CはAに対して使用対価(家賃相当額の各3分の1)を請求でき、Aへの明渡請求は原則としてできません。共有状態を解消したい場合は、共有物分割の協議を行い、まとまらなければ共有物分割請求訴訟を提起することになります。

