「遺産分割」と「共有物分割」は何が違うのですか?どちらの手続をすればいいですか?
遺産分割は、相続財産を相続人の間で分ける家庭裁判所の手続です(民法907条)。共有物分割は、すでに共有状態にある特定の財産の共有関係を解消する手続で、話し合いがまとまらない場合は地方裁判所の訴訟によります(民法258条)。相続により生じた共有(遺産共有)は原則として遺産分割、それ以外の共有(物権共有)は共有物分割で解消するのが基本ルールです(民法258条の2第1項)。
遺産分割と共有物分割の意味
遺産分割と共有物分割は、いずれも共有状態にある財産を分けるための手続ですが、その目的と適用場面が異なります。
遺産分割は、相続が開始したときに、遺産(相続財産)を相続人の間で具体的にどう分けるかを確定させる手続です(民法907条)。相続人全員での協議を原則とし、協議がまとまらない場合には家庭裁判所の調停または審判によって進めます。遺産は、相続開始から遺産分割が完了するまでの間、相続人による暫定的な共有状態(遺産共有)に置かれ、遺産分割の完了により最終的な帰属が確定します。
共有物分割は、すでに共有となっている特定の財産について、共有者の1人からの請求により共有関係を解消する手続です(民法258条1項)。共有者間の協議によるのが原則ですが、協議がまとまらない場合には地方裁判所に共有物分割訴訟を提起することになります。
相続によって生じた共有かどうかによって、適用される手続が変わります。両者の違いを整理する前提として、遺産共有と物権共有の区別を理解しておくことが重要です。
遺産分割と共有物分割の違い
両者の違いを一覧にすると、次のとおりです。
| 項目 | 共有物分割 | 遺産分割 |
|---|---|---|
| 根拠条文 | 民法258条 | 民法907条2項・258条 |
| 手続の種類 | 形式的形成訴訟 | 家事調停・審判 |
| 職分管轄 | 地方裁判所・簡易裁判所 | 家庭裁判所 |
| 土地管轄 | 被告の住所地 | 調停:相手方の住所地/審判:相続が開始した地 |
| 当事者 | 共有者全員(固有必要的共同訴訟) | 相続人全員 |
| 対象財産 | 特定の共有物(1個の財産) | 遺産すべて(または一部) |
| 分割の基準となる割合 | 共有持分割合 | 具体的相続分 |
| 判断要素 | 対象の共有物に関するものに限定 | 広範な親族関係に及ぶ(民法906条) |
| 遡及効 | なし | あり(民法909条) |
| 裁判所による分割禁止 | なし | あり(5年以内) |
| 申立手数料 | 対象財産の価額による | 1,200円(調停・審判) |
比較表で特に重要な違いは、次の3点です。
第1に、分割の基準となる割合が異なります。 共有物分割では登記簿上の共有持分割合がそのまま基準となります。これに対して遺産分割では、法定相続分に特別受益や寄与分による加算・減額を反映させた「具体的相続分」が基準となります。したがって、遺産分割のほうが、各相続人の事情を反映した結果になりやすいといえます。
第2に、考慮される事情の範囲が異なります。 共有物分割では、判断要素は対象となっている共有物そのものに関する事情に限られます。一方、遺産分割では、民法906条が「遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して」分割すると定めており、親族関係に及ぶ広範な事情が考慮されます。
第3に、選択できる分割類型が異なります。 共有物分割では現物分割・換価分割・全面的価格賠償(代償分割)の3類型が基本で、共有のまま分割を完了させる「共有分割」は選択できません。これに対して遺産分割では、遺産を共有のまま残しつつ分割を完了するという処理が可能です。また、遺産分割では配偶者居住権の設定も認められており、共有物分割よりも柔軟な分割方法が採用されやすい傾向があります。
どちらの手続によるべきか(判断基準)
どちらの手続によるべきかは、当事者が選択できるものではなく、共有の法的性質によって決まります。
物権共有のみのケースは、共有物分割によって解消します。典型例は、夫婦が共同で購入した不動産や、共同事業のために取得した不動産です。協議が調わない場合は、地方裁判所に共有物分割訴訟を提起します。
遺産共有のみのケース(1つの財産の全体が遺産共有)は、原則として遺産分割によって解消します。共有物分割訴訟を提起しても不適法として却下されます(民法258条の2第1項)。この点について、最高裁は、遺産分割未了の遺産である共有不動産について共有物分割訴訟を提起することは許されないと判断しています(最判昭和62年9月4日)。令和3年改正により、この判例法理が条文として明文化されました。
遺産共有と物権共有が混在するケースでは、原則として共有物分割と遺産分割の両方の手続が必要となります。ただし、相続開始から10年を経過した場合には、例外的に共有物分割訴訟の中で遺産共有持分の共有関係も解消できる場合があります(民法258条の2第2項)。

