取得したい共有不動産に住宅ローンが残っています。代償金の金額はどう計算しますか?

回答

共有不動産に抵当権(住宅ローン)が設定されている場合、代償金(全面的価格賠償の賠償金)の算定において、被担保債権額(ローン残高)を控除するかどうかが問題になります。控除するかどうかは、債務者の無資力リスク(ローンを返済できなくなるリスク)の程度や、そのリスクを共有者間でどのように分担するのが公平かという観点から判断されます(民法258条、351条、500条参照)。

目次

担保負担分控除の意味と趣旨

代償分割(全面的価格賠償)とは、共有者のうち1人が不動産全体を取得し、他の共有者にその持分に応じた金銭(代償金)を支払う方法です。代償金は、共有不動産の時価を基準に算定するのが原則です。

しかし、共有不動産に抵当権(住宅ローンなどの担保権)が設定されていることは実務上よくあります。このとき、代償金の算定にあたって被担保債権額(ローン残高)を不動産の時価から差し引く(控除する)かどうかが「担保負担分控除」の問題です。

この問題が生じる背景には、一般的な不動産取引における考え方があります。担保権が設定された不動産の売買では、通常、時価から被担保債権額を控除した金額を売買代金とします。その理由は、買主が債務不履行のリスク(ローンが返済されず担保権が実行されるリスク)を負うためです。ただし、担保権の存在自体によって不動産の時価そのものが減少するわけではありません。債務者がローンを完済すれば担保権は消滅しますし、仮に債務不履行が起きた場合でも、買主は債務者に代わって弁済すれば求償権(民法351条)や弁済者代位(民法500条)によって債務者に対する請求権を取得します。

担保負担のある不動産の評価方法

担保権の負担がある不動産の価値を評価する際には、以上の事情を反映して、次のような計算式が用いられます。

担保負担のある不動産の価値
 = 時価 − 被担保債権額 + 求償・代位による回収見込額(− 回収コスト)

ここでのポイントは、被担保債権額を単純に差し引くだけではなく、債務者への求償や代位によって回収できる見込みがあればその分を加算する点です。仮に債務不履行が生じないことが確実であれば、被担保債権は完済されて担保権が消滅するため、そもそも控除自体が不要となります。

たとえば、AとBが各2分の1の持分で共有する不動産(時価6,000万円)にローン残高2,000万円の抵当権が設定されており、Aが全面的価格賠償により不動産全体を取得するケースを考えます。仮にローン残高を控除する場合、不動産の評価額は4,000万円となり、Bに支払う代償金は4,000万円×1/2=2,000万円です。控除しない場合は、6,000万円×1/2=3,000万円となります。このように、控除の有無は代償金の額に大きな影響を与えます。

控除の判断基準

無資力リスクの検討

担保負担分を控除するかどうかについては、一定の判断基準が裁判例で示されています。

まず第一に、被担保債権の債務者の無資力リスク(返済できなくなるリスク)の程度を検討します。債務者自身の資力と、被担保債権に関する他の物的担保・人的担保から、債務不履行リスクや求償権の回収不能リスクを評価します。

無資力リスクが低い場合は、ローンは完済される見込みが高いため、担保負担分の控除はしません。無資力リスクが高い場合は、そのリスクを共有者間でどのように分担するのが公平かという観点から判断することになります。

共有者間でのリスク分配

無資力リスクが高い場合、次に問題となるのは、そのリスクを誰が負担すべきかです。全面的価格賠償では、共有者のうち1人(現物取得者)が他の共有者の持分を実質的に取得します。類型的に、被担保債権の債務者が現物取得者自身であること、または債務者が現物取得者の関係者(共有者とはなっていない親族や現物取得者が実質支配する法人)であることがよくあります。このような場合、債務不履行によるリスクを対価取得者(お金をもらう側の共有者)に負わせるのは不合理であるため、被担保債権額の控除はしない方向性となります。

なお、裁判例は、共有物分割の対象となる不動産の価格を検討するにあたり、担保の被担保債権額をどのように考慮するかについて、まず債務者の無資力リスクの程度を検討し、リスクがあるとすればそれを共有者間でどのように負担させるのが公平であるかという点からの検討が必要であると判示しています(京都地裁平成22年3月31日判決)。

オーバーローンの場合

被担保債権額が不動産の時価を上回る状態、いわゆるオーバーローンの場合には、担保負担分を控除すると代償金の額がマイナスになってしまいます。判決で現物取得者にマイナスの債務を負わせるわけにはいきませんので、このような場合には便宜的な金額を代償金額として定めることがあります。

担保権消滅を条件とする方法

担保権の負担があると代償金の算定が複雑になるため、判決の中で担保権設定登記の抹消(消滅)を代償金支払いの条件とすることがあります。この方法によれば、担保権がない前提で代償金を定めればよく、担保負担分の控除で悩む必要がなくなります。

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