不動産の共有持分はどのように調査したらいいですか?
被相続人の共有持分の有無は、(1)市区町村役場で名寄帳を取得する際に「単独所有・共有名義を問わず一切の不動産」について発行を依頼し、(2)該当する不動産について法務局で登記事項証明書を取得し、甲区(所有権に関する事項)に記載されている共有者・持分割合・所有権移転の履歴を確認することで把握できます(地方税法387条)。名寄帳は市区町村によって共有名義分が単独所有分と別の帳簿として作成されており、申請の際に共有分の発行を併せて依頼しないと漏れるおそれがあるため、注意が必要です。
調査・手続の概要
不動産の共有持分は、相続調査の現場で見落とされやすい代表的な財産です。被相続人が単独所有している不動産は固定資産税の納税通知書から比較的容易に把握できますが、共有持分については、以下の事情により、調査の段階で抜け落ちることが少なくありません。
第一に、共有物に対する固定資産税は、各共有者が連帯して納付する義務を負うため(地方税法10条の2第1項)、課税実務上、市区町村は被相続人が単独で所有する資産とは別に、「被相続人 外○名」という共有者集団を一つの納税義務者の単位として管理しています。この結果、共有名義の不動産が単独所有の名寄帳とは別の帳簿として作成されている市区町村が多く、名寄帳の交付申請の際に共有分の発行を併せて依頼しないと、共有不動産の存在自体が判明しないことがあります。
第二に、固定資産税納税通知書には地目・地積は記載されていても、共有の場合の持分(被相続人が何分の何を所有しているか)までは記載されていないことが多いため、課税通知書を見ただけでは正確な持分が分からないことが多くあります。
第三に、被相続人と他の家族(配偶者・親・子・兄弟)等で共有している不動産は、生前から「みんなのもの」として認識されていることも多く、相続人が遺産として意識しないまま協議に進んでしまうことがあります。
これらの事情から、共有持分の調査では、(a)名寄帳での共有名義分の網羅的把握と、(b)登記事項証明書での持分割合の正確な確認の双方が不可欠となります。
申請主体・申請先・必要書類
申請主体
| 取得する書類 | 申請主体 |
|---|---|
| 名寄帳 | 相続人(共同相続人の一人が単独で請求可能) |
| 登記事項証明書 | 誰でも請求可能(不動産登記法119条1項) |
申請先
| 取得する書類 | 申請先 |
|---|---|
| 名寄帳 | 不動産所在地の市区町村役場の固定資産税課・税務課(東京23区は都税事務所) |
| 登記事項証明書 | 全国どこの法務局でも取得可能、または登記・供託オンライン申請システム |
必要書類
名寄帳の取得に必要な書類
| 書類 | 内容・取得先 |
|---|---|
| 名寄帳の写しの交付申請書 | 各市区町村の窓口またはホームページからダウンロード |
| 被相続人の死亡が確認できる戸籍謄本(除籍謄本) | 本籍地の市区町村役場 |
| 被相続人と申請者(相続人)の関係を示す戸籍謄本 | 各人の本籍地の市区町村役場 |
| 申請者の本人確認書類 | 運転免許証・マイナンバーカード等 |
| 法定相続情報一覧図(あれば戸籍謄本一式の代用が可能) | 法務局 |
| 手数料 | 1件あたり200〜300円程度(市区町村により異なる。※最新情報を要確認) |
登記事項証明書の取得に必要な書類
| 書類 | 内容・取得先 |
|---|---|
| 交付申請書(または登記・供託オンライン申請システムでの請求) | 法務局窓口またはオンライン |
| 不動産の地番・家屋番号 | 名寄帳・固定資産税納税通知書・登記情報提供サービス等で事前に把握 |
| 手数料 | 1通600円(書面請求)、520円(オンライン請求・送付)、490円(オンライン請求・窓口交付)。※令和7年4月1日改定後の額。最新情報は法務省ホームページで要確認 |
登記事項証明書の取得には申請者の本人確認や被相続人との関係を示す書類は不要です。地番・家屋番号さえ把握していれば誰でも取得できます。
申請の流れ
ステップ1:名寄帳の取得(「共有分も含む」依頼が必須)
被相続人の住所地・本籍地・出身地・転居履歴のある市区町村に対して、それぞれ名寄帳を申請します。このとき、申請書の備考欄や口頭で「単独所有・共有名義を問わず、被相続人名義のすべての不動産」について発行を依頼することが極めて重要です。
市区町村によって以下のような取扱いの違いがあります。
- 単独所有と共有名義を統合した一覧で交付する市区町村
- 単独所有の名寄帳と共有名義の名寄帳を別の帳簿として交付する市区町村
- 共有名義については個別に依頼しないと交付されない市区町村
いずれの取扱いでも、申請段階で「共有分も含めて」と明示しておけば漏れを防げます。なお、共有名義の名寄帳は他の共有者の氏名等が記載されるため、市区町村によっては交付に追加の確認手続を要する場合があります。
ステップ2:対象不動産の特定
名寄帳に記載されている各不動産について、共有持分の表示があるかを確認します。共有名義の不動産には、被相続人の持分(「持分○分の○」)が記載されているのが通常です。ただし、市区町村によっては持分が記載されていない場合や、評価額のみで持分の表示がない場合もあります。
ステップ3:登記事項証明書の取得
対象不動産について、法務局で登記事項証明書を取得します。窓口・郵送・オンライン(登記・供託オンライン申請システム)のいずれの方法でも取得可能です。
ステップ4:現況の整合性確認
名寄帳に記載された持分と、登記事項証明書の甲区に記載された持分が一致するかを照合します。両者が異なる場合には、次のステップ(取得した書類で確認すべき項目)で詳しく確認します。
所要期間と費用
- 名寄帳:窓口請求は当日、郵送は1〜2週間程度。1件あたり200〜300円程度
- 登記事項証明書:窓口請求は当日、オンライン請求は数日。1通あたり490〜600円程度(請求方法により異なる)
- 不動産の数が多い場合は複数枚必要となるため、想定通数を見積もって予算化しておくとよいでしょう
取得した書類で確認すべき項目
名寄帳の共有名義の表示
名寄帳には、被相続人が共有者の一人となっている不動産が記載されます。
「共有名義の名寄帳が別冊として作成されているか」を市区町村に確認することが重要です。単独所有の名寄帳しか取得していないと、共有不動産がそもそも視野に入りません。「共有分は含まれているか」を窓口で必ず確認してください。
登記事項証明書 甲区の共有者・持分の表示
登記事項証明書の甲区(所有権に関する事項)には、共有の場合、共有者全員の氏名・住所と、各共有者の持分割合(「持分○分の○」)が記載されます。
被相続人の持分割合を正確に読み取ります。「持分2分の1」と「持分10分の5」は同じ意味ですが、登記の記載がそのまま遺産分割協議書や相続登記申請書での記載に直結するため、登記事項証明書の表記をそのまま採用するのが基本です。
所有権移転の履歴
甲区には、過去の所有権移転の履歴が時系列で記載されます。被相続人がいつ・どのような原因(売買・相続・贈与等)で持分を取得したか、また、持分が変動している場合(部分的な持分移動を繰り返している場合)はその経緯を確認します。
持分は贈与や売買により部分的な移動を繰り返している場合があり、登記事項証明書をじっくり確認しないと誤った持分で把握してしまうおそれがあります。複数回の持分移転がある不動産については、最新の登記情報に至るまでの履歴を時系列で押さえておくことが望まれます。
共有者の氏名と続柄
共有者として登記されている人物が、被相続人とどのような関係にあるかを確認します。
共有者が以下のいずれにあたるかで、その後の取扱いが大きく変わります。
- 共有者が他の相続人である場合(例:配偶者・子・兄弟姉妹)→ 遺産分割協議で被相続人の持分の帰属を決めれば足ります
- 共有者が第三者(親族でない者・既に死亡した親族の元持分の承継者等)である場合 → 被相続人の持分の処分には、第三者との共有関係を維持したまま協議を進めるか、第三者と交渉して持分を集約するかの選択が必要となります
- 共有者の中に既に死亡している者がいる場合(数次相続) → その死亡者の相続人を辿る必要があり、調査が複雑化します
名寄帳と登記事項証明書の持分の整合性
名寄帳に記載された持分と、登記事項証明書の甲区に記載された持分が一致しているかを照合します。
通常は一致しますが、課税側(市区町村)の情報更新が遅れている場合や、未登記の持分移動がある場合などには齟齬が生じることがあります。一致しない場合は、登記事項証明書(法務局の登記情報)を基準として扱うのが原則です。固定資産課税台帳は、毎年1月1日(賦課期日)時点の登記簿上の所有者を基に作成されるものであり(地方税法343条)、課税情報は登記情報から派生したものといえます。そのため、権利の帰属は登記事項証明書を基準に確認します。ただし、登記には公信力がなく、未登記の取引があれば実体的な権利関係が登記と異なる場合もあるため、相続人や関係者から事情を聴取することも有用です。
乙区の権利関係
被相続人の持分に対して、抵当権・差押え・仮登記等が設定されていないかを乙区で確認します。
共有不動産であっても、各共有者の持分に対して個別に抵当権等を設定することは可能です。被相続人の持分のみに抵当権が設定されているケースもあるため、見落とさないようにします。
私道・公衆用道路の共有持分
私道や公衆用道路として供されている土地は、宅地に隣接する形で「○○番○の土地について被相続人が○分の○の持分」というかたちで共有されていることが多くあります。
評価額が0でも遺産分割の対象となる財産です。名寄帳で評価額0と表示されている共有持分は見落とされやすいため、私道の番地と宅地の番地の対応関係を確認しておきます。
参考リンク
| 機関 | URL |
|---|---|
| 登記・供託オンライン申請システム(法務省) | 登記・供託オンライン申請システム |
| 登記情報提供サービス | 登記情報提供サービス |
相続トラブルに備えたアドバイス
申請段階で「共有分も含める」ことを必ず明示する
名寄帳の取得時に最も多い漏れの原因は、申請者が「単独所有のみ」の名寄帳を取得したまま満足してしまうケースです。申請書の備考欄に「単独所有・共有名義を問わず、被相続人名義のすべての不動産」と明示するか、窓口担当者に口頭で確認することをお勧めします。市区町村によっては「共有分の名寄帳は別途お申し出ください」と運用されているところもあり、知らないと漏れる可能性があります。
共有関係は遺産分割協議が複雑化しやすい
被相続人の持分のみが相続対象となる共有不動産については、被相続人の持分を共同相続人間でどう分けるかという通常の遺産分割の論点に加えて、他の共有者(被相続人以外の共有者)との関係をどう整理するかという論点が重なります。たとえば、被相続人の持分を相続人の一人が単独取得する形にすると、その相続人が他の共有者との共有関係を引き継ぐことになり、将来の共有物分割をめぐる紛争の火種を抱えることになります。逆に、被相続人の持分を複数の相続人が承継すると、共有者の数がさらに増えることになります。
調査の段階では、これらの選択肢を踏まえて、共有者が誰か・持分割合がどうか・共有者との関係性はどうかを正確に把握しておくことが、後の遺産分割協議をスムーズに進めるための前提となります。
数次相続が絡む場合の留意点
共有者の一人が既に死亡している場合、その死亡者の相続人を辿る必要があり、調査の規模が一気に膨らみます。共有者の生死を確認する基本資料として、共有者の住所地の戸籍附票や住民票(除票)を取得できる場合があります(取得には正当な理由を求められる場合があります)。共有者の数が多い古くからの不動産(代々の本家筋の土地等)では、数次相続による相続人の枝分かれが進んでいることがあり、調査の早期着手が望まれます。
共有持分の漏れは協議の蒸し返しを招く
遺産分割協議成立後に被相続人名義の共有持分が新たに発見された場合、その共有持分について別途協議が必要となるだけでなく、共有持分の存在を前提に協議内容そのものを見直す必要が生じる場合もあります。協議に着手する前の段階で、本籍地・出身地・転居履歴のある自治体すべてに対して名寄帳の交付を申請し、共有分も含めて取得しておくことも検討する必要があります。
名寄帳に載らない共有持分への目配り
固定資産税の免税点未満の共有持分や、非課税の共有持分(墓地・私道等)については、名寄帳に記載されないか、評価額欄が空欄で記載されることがあります。「名寄帳に載っていないから共有はない」と断定せず、被相続人の自宅周辺の私道・公衆用道路、墓地、本家の土地等について、関係者からの聴取や登記情報提供サービスでの周辺地番の検索も併用することが望まれます。

