代償金(賠償金)の支払いを確保する方法はあります。裁判所は、共有物分割の判決で金銭の支払や登記義務の履行などの給付を命じることができ(民法258条4項)、賠償金の給付判決、持分移転登記との引換給付判決、不払い時に換価分割へ移行する条件付き判決が用いられています。判決による分割払いは想定されておらず、担保権の設定にも消極的です。
結論
共有物分割の判決で全面的価格賠償(共有者の1人がお金を払って不動産全体を取得する方法)が命じられても、その代償金(判決上は「賠償金」と呼ばれます)が実際に支払われる保証はありません。審理の中で取得者の支払能力が認められた場合でも、判決の後に資力が変わることや、支払いを拒まれることはあり得ます。そこで裁判所は、判決の中に支払いを確保するための仕組みを組み込んでいます。
その根拠となるのが、令和3年改正で新設された民法258条4項です。同項では、共有物分割の裁判において、裁判所が当事者に対して金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができるとされています。改正前から実務では職権による給付命令が出されていましたが、この改正で明文の根拠が整いました。
根拠と条件
支払いを確保するための措置の種類
代償金を受け取る側の共有者(対価取得者)を守るための措置には、次のものがあります。
| 措置の内容 | 実務での取扱い |
|---|---|
| 賠償金の給付判決(債務名義化) | ほぼ全件で採用 |
| 利息・遅延損害金の給付判決 | 認められることが多い |
| 賠償金と持分移転登記の引換給付判決 | 原則として採用 |
| 支払期限の設定+不払い時の換価分割(条件付き判決) | 採用例がある |
| 担保権(抵当権)の設定 | 消極(判決での実例はない) |
賠償金の給付判決は、いちばん基本的な措置です。判決の中で賠償金の支払いを命じておけば、不払いのときに、代償金を受け取る側は差押え(強制執行)で回収できます。当事者からの申立てがなくても、裁判所が職権でこの給付を命じるのが実務の運用で、あわせて遅延損害金の支払いを命じる例も少なくありません。
引換給付判決は、賠償金の支払いと持分移転登記を引換えとするものです。代償金が支払われるまで登記名義が元の共有者に残るため、登記だけが先に移って代金は払われない、という事態を防げます。不動産を取得する側にとっても、支払いさえすれば確実に登記を得られるという意味があり、双方を保護する措置として、実務では原則としてこの形がとられています。
条件付き判決は、賠償金の支払いに期限を設け、期限までに支払われなかったときは換価分割(競売により売却して代金を分ける方法)に移行する、という内容をあらかじめ判決に盛り込むものです。不払いがあっても元の共有状態には戻らず、競売による分割で共有関係を解消できます。
当事者が申し立てなくても裁判所が命じられる
これらの措置は、代償金を受け取る側から申立て(請求)があれば、判決に盛り込むこと自体に問題はありません。ただ、代償金を受け取る側は、多くの場合、自分が持分を失う内容の全面的価格賠償を望んでいないため、それを前提とした措置を自分から正式に申し立てにくい、という事情があります。民法258条4項が職権による給付命令を認めている意味は、この点にあります。申立てがなくても、裁判所の判断で判決に各種の給付を盛り込めます。
履行確保の措置が十分にとられると、代償金の不払いリスクが小さくなるため、審理の中での支払能力の認定も柔軟に行われやすくなります。条件付き判決を用いることで支払能力の要件を緩やかに判断したと読める裁判例もあります。
分割払い(支払いの猶予)はできるか
共有物分割訴訟の判決で、代償金の分割払いや支払いの猶予を命じることは想定されていません。代償金を支払える資力(支払能力)があることは全面的価格賠償の要件の1つであり、一括で支払えないことを前提とする分割払いの判決は、この要件と両立しないためです。
これに対して、訴訟の中で和解をする場合には、当事者の合意により、支払期限の猶予や分割払いを取り決める余地があります。支払能力が不足する場合の取扱いについては、「他の共有者から持分を取得したいのですが、支払うお金を用意できません。どうなりますか?」で解説しています。
担保の設定はできるか
代償金の支払いを担保するために、取得者が得る不動産へ抵当権を設定させるという考え方はあります。しかし、判決で担保権を設定することには否定的な見解が強く、少なくとも令和3年改正より前の実務で行われた例はありません。改正後の民法258条4項が例示する給付の中にも、担保権の設定は含まれていません。同じ文言の規定をもつ遺産分割審判(家事事件手続法196条)では担保権設定のまれな実例があることから、個別の判断として可能とする考え方もあるものの、一般的な運用にはなっていません。
具体的な場面での適用
AとBが持分2分の1ずつで土地を共有していて、裁判所がAに土地全体を取得させ、AからBへ代償金2,000万円を支払わせる全面的価格賠償を選択したとします。
引換給付判決の場合、判決主文は「Bは、Aから2,000万円の支払いを受けるのと引換えに、持分の移転登記手続をせよ」という形になります。Bは、代償金を受け取るまで登記に応じる義務を負いません。
条件付き判決の場合は、「Aが判決確定後3か月以内にBへ2,000万円を支払ったときは土地をAの単独所有とし、支払わないときは土地を競売に付し、売得金を持分割合に応じて分割する」という形がとられます。Aが支払わなくても、共有関係はそのまま残らず、競売による分割へと進みます。

