連絡が取れない共有者がいる共有不動産を、第三者に売却することはできますか?

回答

所在不明の共有者がいても、共有不動産を第三者に売却することは可能です。いちばん直接的な方法は、令和3年改正民法で新設された「所在等不明共有者の持分譲渡権限付与の裁判」(民法262条の3)を利用する方法で、所在不明共有者の持分を含む不動産全体を第三者に売却できます。このほか、持分取得の裁判(民法262条の2)等を活用する方法もあります。

目次

結論

所在不明の共有者がいても、共有不動産全体を第三者に売却することはできます。令和3年民法改正により「所在等不明共有者の持分譲渡権限付与の裁判」(民法262条の3)が新設され、裁判所の決定を得れば、所在不明共有者の持分を含む不動産全体を100%所有権として第三者に売却できる仕組みが整いました。

改正前は、共有物分割訴訟か不在者財産管理人(民法25条1項)の選任による方法しかなく、訴訟費用や管理人報酬がかかっていました。本制度は、こうした費用をかけずに売却できるようにしたものです。

なお、共有不動産全体の売却は「処分」にあたり、所在不明共有者がいる場合の変更の裁判(民法251条2項)の対象には含まれないため、売却にはこの民法262条の3の手続を選択することになります。

根拠と条件

持分譲渡権限付与の裁判の制度内容

民法262条の3第1項は、所在等不明共有者がいるときは、裁判所は、共有者の請求により、所在等不明共有者以外の共有者の全員が特定の者に持分の全部を譲渡することを停止条件として、所在等不明共有者の持分を当該特定の者に譲渡する権限を申立人に付与する裁判をすることができると定めています。要するに、共有者全員が同じ第三者に持分を譲渡する(=不動産全体を売却する)ことを前提に、所在不明共有者の持分も申立人がまとめて譲渡できるようにするしくみです。

借地権・賃借権など、不動産の使用収益権の準共有にも準用されます(民法262条の3第4項)。

利用するための要件

申立てのために必要な事実は、次の三つです。

  1. 申立人と相手方が不動産の共有者であること
    本制度の対象は不動産(およびその使用収益権)に限られます。動産には使えません。
  2. 相手方が所在等不明共有者であること
    共有者の氏名・名称がわからない、またはその所在がわからないという状況が必要です(民法262条の3第1項)。登記簿と住民票による所在調査を尽くしたが判明しなかったことが前提であり、共有者が死亡しているときは戸籍等による相続人調査も必要になります。共有者の1人が死亡し、相続人がいることが明らかでない場合も、これに該当すると考えられています。
  3. 遺産共有の場合は相続開始から10年経過していること
    所在不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産分割をすべき場合に限ります)、相続開始の時から10年を経過していなければ利用できません(民法262条の3第2項)。

なお、持分取得の裁判(民法262条の2)と異なり、他の共有者が分割手続の申立てと異議の届出によって裁判を阻止する制度はありません。他の共有者全員が第三者への売却に賛成していることが制度の前提だからです。

手続の流れと供託

申立先(管轄裁判所)は、不動産の所在地を管轄する地方裁判所です(非訟事件手続法88条1項)。申立てを受けた裁判所は、3か月以上の異議届出期間を定めて公告を行い、所在等不明共有者本人から異議の届出があった場合には、裁判をすることができません。

異議の届出がなければ、裁判所は、申立人に対し、裁判所が定める額の金銭を供託する(法務局に預ける)よう命じます(非訟事件手続法88条2項・87条5項)。供託額は、所在不明共有者の持分の時価が原則です。申立人が供託をすると、持分譲渡権限付与の決定がなされます。

決定の効力が生じた後2か月以内に譲渡の効力を生じさせないと、裁判は効力を失います(非訟事件手続法88条3項本文)。この期間は裁判所が伸長することもできます(同項ただし書)。なお、期間内に必要なのは譲渡の効力の発生であり、持分移転登記の完了までは要しません。

売却後の対価請求

所在不明共有者は、持分が第三者に譲渡されたときは、申立人に対し、不動産の時価相当額を自身の持分に応じて按分して得た額の支払を請求できます(民法262条の3第3項)。不動産全体として売却されるため、持分取得の裁判の場合と異なり、共有減価(共有持分の評価が単独所有に比べて低くなること)は行われません。供託金はこの対価請求権への充当が想定されており、供託金が按分額に不足するときは差額を請求できます。

具体的な場面での適用

パターン1:持分譲渡権限付与の裁判で直接売却する

A・B・Cが3分の1ずつ共有する不動産をDに売却したいが、Cが所在不明であるという場合、A(またはB)が持分譲渡権限付与の裁判を申し立てます。決定を得て供託をすれば、申立人は「C以外の共有者全員がDに持分全部を譲渡することを停止条件として、Cの持分をDに譲渡する権限」を取得し、A・B・Cの全持分をまとめてDに売却できます。

いちばん直接的な方法ですが、申立人は売却代金を受け取る前に供託金を立て替える必要があります。また、決定の効力発生から2か月以内に譲渡を完了させる必要があるため、買主候補と売却条件が固まった段階で申し立てることが想定されています。

パターン2:持分取得の裁判で持分を集約してから売却する

別の方法として、いったん所在不明共有者Cの持分をBが持分取得の裁判(民法262条の2)で取得し、共有者をA・Bだけに絞ってから第三者Dに売却する方法もあります。持分取得の裁判では、単独所有が実現しない場合、供託額の算定にあたり共有減価(2割〜3割が目安とされます)がなされることが想定されており、立て替える金額を抑えられる可能性があります。また、その後の売却には2か月の期間制限もありません。持分取得の裁判については、Q98で詳しく解説しています。

参考:管理人を選任してもらう方法

このほか、不在者財産管理人(民法25条1項)や所有者不明土地(建物)管理人(民法264条の2・264条の8)の選任を受け、管理人が裁判所の許可を得て売却する方法もあります。管理人報酬がかかる反面、供託金の立替えが不要というメリットがあります。

なお、管理費用等を負担しない共有者の持分を取得する制度として、共有持分買取権(民法253条2項)もあります。

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