共有者の1人が他の共有者にお金(賠償金)を支払い、共有不動産の全体を取得して共有関係を解消する方法を「全面的価格賠償」(賠償分割・代償分割)といいます。民法258条2項2号が「共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法」として定める、裁判による共有物分割の分割類型の一つです。
全面的価格賠償(賠償分割)の意味と趣旨
全面的価格賠償とは、共有物を共有者のうち1人(または数人)の単独所有とし、現物を取得した共有者が他の共有者に対して、持分の価格に相当する対価(賠償金)を支払う分割方法です。裁判による共有物分割について、民法258条2項2号は「共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法」と定めており、これが全面的価格賠償にあたります。遺産分割における代償分割(家事事件手続法195条)に相当する方法で、賠償分割とも呼ばれます。
単純な例は、時価3,000万円の土地をAとBが持分2分の1ずつで共有しているケースです。この土地の全体をAの単独所有としたうえで、AがBに対して持分の価格に相当する1,500万円の支払義務を負担すれば、土地を物理的に分けることなく共有関係を解消できます。
土地を分筆すると宅地として使いにくくなる場合や、建物のように物理的な分割になじまない場合でも、この方法によれば競売を経ずに共有関係を解消できます。共有者の1人がその不動産に居住しているときは、居住を続けたまま共有関係だけを解消できる点に意義があります。
全面的価格賠償は、もともと民法に規定のない分割類型で、かつては法律が許容していない方法だとして否定的に扱われた時期もありました。この点、最高裁は、一定の要件を満たす特段の事情があるときは、全面的価格賠償の方法による分割も許されると判断しています(最判平成8年10月31日)。この判断は、令和3年民法改正(2023年4月1日施行)で民法258条2項2号として明文化されました。
これと区別すべき方法として、現物分割をしたうえで、各共有者が取得する現物の価格の過不足を金銭で調整するものがあります。こちらは「部分的価格賠償」と呼ばれ、現物分割の一態様として扱われます。なお、最高裁は、持分の価格以上の現物を取得する共有者に超過分の対価を支払わせて過不足を調整することも現物分割の一態様として許されると判断しています(最判昭和62年4月22日。現行法のもとでも妥当する判断です)。
全面的価格賠償の要件
民法258条2項2号は分割方法そのものを定めるだけで、遺産分割の代償分割の規定(家事事件手続法195条の「特別の事情があると認めるとき」)のような限定の文言を置いていません。令和3年改正の議論の中で要件の明文化が見送られたためで、要件を緩和する趣旨ではなく、平成8年最高裁判決が示した判断基準が現在も用いられています。
同判決の示した要件は、次の四つです。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 相当性 | 共有物を特定の共有者に取得させるのが相当と認められること |
| 適正評価 | 共有物の価格が適正に評価されていること |
| 支払能力 | 取得する共有者に賠償金の支払能力があること |
| 実質的公平 | 他の共有者に持分の価格を取得させることとしても、共有者間の実質的公平を害しないと認められること |
このうち相当性は、共有物の性質・形状、共有関係の発生原因、共有者の数と持分の割合、共有物の利用状況、分割された場合の経済的価値、分割方法についての共有者の希望とその合理性といった事情を総合的に考慮して判断されます。
各要件の内容と判断のあり方については、「お金を払って共有不動産を丸ごと取得するには、どのような条件が必要ですか?」で詳しく解説しています。支払能力が認められない場合については、「不動産を取得したいのですが、支払うお金を用意できません。どうなりますか?」で扱います。
全面的価格賠償の効果
全面的価格賠償による分割が行われると、共有不動産は取得者の単独所有となり、他の共有者は持分を失う代わりに、賠償金の支払いを受ける債権を取得します。
賠償金の額は、共有不動産の全体の適正な価格(時価)に、持分を失う共有者の持分割合を乗じて算定するのが基本です。
【計算例】
土地の時価:3,000万円
Bの持分:2分の1
Aが支払う賠償金 = 3,000万円 × 1/2 = 1,500万円
賠償金の算定における評価の考え方については、「他の共有者に支払う金額はどうやって決まるのですか?」で詳しく解説しています。
裁判所は、共有物分割の裁判において、当事者に対し、金銭の支払いや登記義務の履行などの給付を命じることができます(民法258条4項)。この給付命令の規定も令和3年改正で設けられたもので、賠償金の支払いと持分の移転を結びつける手段です。支払いを確保する方法については、「代償金をちゃんと払ってもらえるか不安です。支払いを確保する方法はありますか?」で扱います。

