共有不動産Q&A

不動産の共有持分を他の共有者に買い取ってもらうにはどうすればいいですか?

不動産の共有持分を他の共有者に買い取ってもらう方法は、一般的に「賠償分割」や「代償分割」と呼ばれています。

この方法で共有関係を解消するためには、まず他の共有者との間で話し合い(協議)を行うことが必要です。他の共有者の同意が得られれば、協議によって持分を買い取ってもらう合意をすることができます。

もし話し合いがまとまらない場合は、裁判所に共有物分割請求訴訟という法的な手続きをとることができます。共有物分割請求訴訟では、裁判所が事案に応じて適切な分割方法を判断しますが、その方法の一つとして、共有者の一方が他の共有者に金銭(賠償金)を支払って共有不動産の全部を単独で所有する「賠償分割」を命じることがあります。

話し合いでの合意や裁判による判決によって持分の買取りが決まったら、法務局で買取りを行った共有者への持分移転登記の手続きを行う必要があります。

ご自身の意思だけでは、他の共有者に持分を買い取らせることはできません。他の共有者の同意を得ての協議、またはそれが難しい場合の裁判手続きが必要となります。

共有物分割請求とはどのような権利ですか?

共有不動産とは、一つの不動産を二人以上の人が共同で所有している状態のことです。このような共有状態にある不動産について、共有者の一人が他の共有者の同意がなくても、その共有関係を解消することを求めることができる権利が共有物分割請求です。

この権利は「形成権」と呼ばれ、権利を持つ人が一方的な意思表示をするだけで、法律関係を変動させる効力があります。つまり、他の共有者が共有状態を続けたいと思っていても、原則としてこの請求をいつでも行うことができます。

共有者全員の話し合い(協議)で分割方法に合意できれば、それに従って共有関係を解消します。しかし、話し合いがまとまらない場合や、共有者の一部と話し合いができない場合には、裁判所に共有物の分割を請求し、裁判の判断によって共有関係を解消することになります。これを「共有物分割請求訴訟」といいます。

この権利は、共有者がいつでも単独所有を目指せるように保障されていますが、例外的に、分割禁止の契約がある場合や、請求が権利の濫用と見なされる場合などには認められないこともあります。

共有物分割が認められない場合はありますか?

不動産の共有物分割請求は、各共有者がいつでもできる原則的な権利です。しかし、例外的に分割請求が認められない場合があります。主なケースは以下の通りです。

共有者全員で分割しない旨の契約(不分割契約)をしている場合
この契約は5年以内の期間に限られますが、更新も可能です。

共有物の性質上、分割請求になじまない場合
例えば、マンションの敷地利用権や、隣接地所有者が通行のために利用する共用通路など、物理的な分割やその用途からみて分割が困難または不適切な場合です。

共有物分割請求が権利の濫用にあたる場合
共有者間の特別な関係性(夫婦や親子など)や、共有不動産が特定の共有者の居住場所になっているなど、分割請求が著しく公平を欠くと判断される事情がある場合です。

相続によって共有となった不動産(遺産共有)の場合
原則として遺産分割の手続(協議や審判)によって解消すべきとされており、共有物分割請求訴訟は認められません。ただし、相続開始から10年を経過した場合は、共有物分割請求が可能になります。

共有物分割の話し合いがまとまらない場合はどうすればいいですか?

不動産の共有者間で共有関係の解消について話し合いがまとまらない場合でも、法的な手続きを通じて解決を図ることが可能です。

一般的な共有不動産(物権共有)の場合、共有物分割請求訴訟を提起することができます。この訴訟では、裁判所が個別の事情を考慮し、現物分割、賠償分割、競売分割といった方法の中から適切な共有物の分割方法を決定する判決を下します。共有物分割請求訴訟は、特別な場合を除き、共有関係を解消する判決を得られる手続きです。

一方、相続によって発生した遺産共有の状態にある不動産の場合、原則として共有物分割訴訟ではなく、家庭裁判所における遺産分割の調停または審判によって分割を進めることになります。ただし、相続開始から10年以上経過した場合は、共有物分割訴訟も可能となります。

自分の共有持分だけ第三者に売却することはできますか?

はい、不動産の共有持分について、ご自身の持分だけを第三者に売却することは可能です。この場合、他の共有者の同意を得る必要はありません。

共有者は、それぞれの持分について、単独で所有する場合と同様に自由に処分する権利を有しているため、他の共有者の承諾なしに売却することができます。

ただし、ご自身の持分だけを第三者に売却する場合、不動産全体を売却する場合と比較して、一般的に共有減価と呼ばれる、価格が低下する要素が生じやすいという側面があります。これは、持分を取得した第三者が他の共有者との関係で利用に制約を受ける可能性があるためです。経済的な有利さを考えると、共有物分割請求訴訟による競売分割の方が有利になることも多いとされています。

また、持分の売却によって利益が生じた場合には、譲渡所得税などが課税される可能性があります。

ご自身の共有持分を単独で売却すること自体は法的に可能ですが、価格や税金、その後の共有関係などを考慮し、慎重に検討することが重要です。

認知症の共有者がいる場合はどうすればいいですか?

共有不動産の売却など重要な行為を行うには、共有者全員の同意が必要です。共有者に認知症の疑いがあり、ご自身の行為の意味を十分に理解する判断能力がない場合、その同意は法的に問題となる可能性があり、売却などが無効となるリスクがあります。

このような状況では、まず医師の診断を受け、判断能力の程度を確認することが重要です。もし判断能力が不十分であると診断された場合は、家庭裁判所に申立てを行い、成年後見制度(後見、保佐、補助)を利用することを検討する必要があります。

成年後見人等が選任されれば、その方が判断能力が不十分な共有者に代わって、またはその同意を得て、不動産売却への同意手続きを進めることになります。ただし、居住用の不動産を売却する場合は、家庭裁判所の許可が必要となる場合があります。この手続きを経ることで、法的に有効な同意を得て不動産取引を進めることが可能になります。

所在不明の共有者がいる場合はどうすればいいですか?

不動産の共有者の中に、その方を知ることができない、または所在が不明な方がいらっしゃる場合(所在等不明共有者)は、共有不動産の管理や売却などの手続きを進めることが難しくなります。従来の制度では対応が難しいことも少なくありませんでした。

この問題に対応するため、2023年4月1日施行の改正民法によって、新たな制度が創設されました。
主な制度は以下の2つです。

①所在等不明共有者の持分を取得する制度
裁判所の決定により、他の共有者が所在等不明共有者の持分を金銭を供託して取得することができます。

②所在等不明共有者の持分を譲渡する権限を付与する制度
裁判所の決定により、他の共有者が所在等不明共有者の持分を第三者に譲渡する権限を得ることができます。

これらの制度は裁判所の手続きを経て行われます。ただし、相続によって共有状態になっている不動産(遺産共有)については、相続開始から10年を経過していなければ、これらの新しい制度は利用できません。その場合は遺産分割の手続きを利用する必要があります。

共有物分割で訴訟をするメリットとデメリットは何ですか?

共有物分割請求訴訟のメリットは、他の共有者の同意が得られない状況でも、裁判所の判決によって強制的に共有状態を解消できるという点です。裁判官が事案の内容を検討し、現物分割、賠償分割、または競売分割といった最も適切と判断される方法で分割を命じます。

一方、デメリットとしては、裁判手続きには一般的に時間と費用がかかります。また、裁判所の判断は当事者の主張に拘束されないため、必ずしもご自身の希望通りの分割方法や結果になるとは限りません。特に、共有物全体の競売(換価分割)が命じられた場合、市場価格よりも低い価格でしか売却できない可能性もありますので、注意が必要です。

共有物分割訴訟は共有者全員で行う必要がありますか?

共有物分割請求訴訟は、判決の効力が共有者全員に及ぶ必要があるため、共有者全員が訴訟に関与する必要がある「固有必要的共同訴訟」という性質を持ちます。そのため、共有者全員が原告または被告のいずれかの立場で当事者とならなければなりません。

ただし、共有者のうち一部が訴訟の提起に同意しない場合でも、同意しない共有者を被告に含めて訴えを提起することができます。これは、共有者全員が共同歩調をとることを常に要するとまでは解されないためです。このようにして、共有関係を解消するための法的手続を進めることが可能となっています。

したがって、共有物分割訴訟は共有者全員が当事者となることが原則ですが、全員の同意が得られない場合でも、法的な手段を用いて訴訟を行う道は開かれています。

共有物分割訴訟でかかる費用にはどのようなものがありますか?

共有物分割請求訴訟にかかる主な費用としては、裁判所に納める費用と、弁護士に依頼する場合の弁護士費用が挙げられます。

裁判所に納める費用は、訴訟で扱う不動産の価格(訴訟物の価額)に応じて計算される貼用印紙額(手数料)が基本となります。その他にも、訴訟において不動産の価格を適切に評価するために、不動産鑑定士による鑑定費用が発生する可能性があります。

また、訴訟の結果、共有不動産を競売によって分割することになった場合には、別途、民事執行予納金などの手続費用が発生します(例えば、東京地裁では原則90万円)。

弁護士費用は、依頼する弁護士や事案の内容によって異なりますが、一般的に着手金や報酬金などが必要になります。

これらの費用は、事案の複雑さや進行状況によって変動しますので、事前に弁護士に相談し、見積りを確認することが重要です。

代償分割とは何ですか?

「代償分割」とは、不動産などの共有物を、共有者のうち誰か一人が単独で取得する代わりに、その単独で取得した共有者が他の共有者に対して、それぞれの持分割合に応じた金銭(価格)を支払うことで、共有関係を解消する方法の一つです。

この方法は「価格賠償」とも呼ばれます。

共有不動産の共有状態を解消するために行われる「共有物分割」の具体的な手段の一つであり、共有者全員の話し合い(協議分割)や、裁判所に分割を請求した場合(裁判分割)に選択されることがあります。

例えば、3000万円の価値がある土地をAさんとBさんが半分ずつ共有している場合に、Aさんが土地全体を一人で取得する代わりに、Bさんに1500万円を支払う、といったケースが代償分割に該当します。これは、共有者の一人が共有不動産を引き継ぎたい場合に適した方法です。

代償分割はどのような場合に認められますか?

代償分割は、共有者間の話し合い(協議分割)で全員が合意すれば、どのような場合でも選ぶことができます。

共有者間での話し合いがまとまらず、裁判所に共有物分割を請求した場合(裁判分割)でも、この代償分割は原則的な分割方法の一つとして認められています。

ただし、代償分割が認められるには、いくつかの要件を満たす必要があります。
具体的には、以下の3つです。

①特定の共有者に取得させるのが相当であると認められること
②共有不動産の価格が適正に評価されること
③取得を希望する共有者に適正価格の支払能力があること

例えば、特定の共有者がその不動産に長年居住しているなど、その共有者が単独で所有することに合理性がある場合に認められやすい傾向があります。この方法は、現物分割が難しい場合だけでなく、現物分割が可能であっても要件を満たせば優先されることがあります。

代償分割における適正価格はどのように決めるのですか?

代償分割の際に支払うべき代償金は、まず対象となる共有不動産全体の適正な評価額を算定し、それに代償金をもらう共有者の共有持分割合を乗じて決定するのが基本的な考え方です。この「適正な評価額」は、競売された場合の評価額ではなく、一般的な市場での取引価格、すなわち時価を基礎とすることになります。

実務では、この不動産の評価額について当事者間で意見が対立することが多く、合意に至らない場合には、不動産鑑定士による鑑定評価を参考にしたり、共有物分割訴訟という裁判手続きの中で裁判所が判断したりする方法が取られます。

なお、この代償金の算定においては、共有持分が単独所有より価値が下がるとされる「共有減価」や、競売による売却で価値が下がるとされる「競売減価」は、原則として適用されません。

代償分割で買い取る人に支払能力がないとどうなりますか?

裁判所が代償分割を命じるための重要な要件として、共有不動産を取得する側に支払能力があることがあります。支払能力が確保されなければ、不動産を渡す側の共有者が正当な対価を受け取れず、実質的な公平が害されるからです。

もし、代償分割を希望する共有者に支払能力がないと判断された場合、裁判所は代償分割以外の方法による分割を検討することになります。具体的には、不動産を競売にかけてその売却代金を持分割合に応じて分配する競売分割(換価分割)が選択される可能性が高くなります。

裁判外での協議で代償分割を進めようとする場合も、支払能力がなければ他の共有者の同意を得ることは難しく、やはり別の解決方法を探る必要が出てきます。

代償金の支払いはどのように確保されますか?

代償金の支払いを確保するためには、以下の方法が用いられます。

①持分権の移転登記の手続きと代償金の支払いを同時に行う方法(同時履行
これは、支払いと登記が同時に行われることで、代償金の支払いが確保される仕組みです。裁判例でもこの方法が広く採用されています。

②代償金の支払いを条件として、不動産を取得する共有者の単独所有とする方法(二段式判決
これは、指定された期日までに支払いがなければ、自動的に他の共有物分割方法(例えば競売分割)に移行するという形式です。

これらの方法は、代償金の支払いを確実にして、共有者間の公平を図るために採用されます。

時価と公的な価格(路線価など)の違いは何ですか?

不動産の価格にはいくつか種類があり、それぞれ目的や基準が異なります。一般的に「時価」は、市場におけるその時点での客観的な価値を指す広い概念です。

これに対し、公的に示される主な価格として以下のものがあります。

・公示地価
 国土交通省が発表する、一般的な土地の取引価格の目安となる価格です。毎年1月1日時点の価格が3月に公表されます。

・基準地価
 都道府県が発表する、地価調査に基づいた価格です。毎年7月1日時点の価格が9月に公表されます。

・路線価
 国税庁が定める、相続税や贈与税を計算するための価格です。毎年1月1日時点の価格が7月に公表され、公示地価の8割程度を目安としています。

・固定資産税評価額
 市町村(東京23区は都)が定める、固定資産税などを計算するための価格です。3年ごとに見直され、公示価格の7割程度を目安としています。

これらの公的な価格は、それぞれ決定者、評価時点、評価水準が異なり、用いられる目的が違います。時価は、これらの公的な価格などを参考にして、個別の不動産の状況や市場の要因を考慮して判断されますが、必ずしも一致するわけではありません。

共有不動産の評価は相続税評価額でも大丈夫ですか?

共有物分割の場面では、相続税評価額だけで評価するのは不十分な場合が多いです。

相続税評価額は、あくまで相続税を計算するための公的な評価額であり、必ずしも市場での取引価格(時価)と一致するわけではありません。例えば、共有物のうち一人が不動産全体を取得し、他の共有者に金銭を支払う代償分割により共有関係を解消する場合、支払われる金銭(代償金)の額は、対象となる不動産全体の適正な価格を基準として算定されます。

ここでいう適正な価格とは、競売を前提とした価格(卸売価格)ではなく、市場における取引価格、つまり時価そのものです。これは、共有関係の解消によって単独所有という理想的な状態になるため、通常の共有持分売買で考慮されるような共有であることによる減価(共有減価)は適用せず、競売に伴う減価(競売減価)も適用しないのが一般的だからです。

したがって、共有不動産の売却や、共有者間で代償分割を行う際は、相続税評価額だけでなく、不動産業者による査定や、より正確な時価を知るための不動産鑑定士による評価などを考慮する必要があります。時価に基づく適正な評価額を知ることが、公平な共有物分割のために重要となります。

不動産鑑定士に不動産の評価を依頼するメリットは何ですか?

不動産鑑定士に不動産の評価を依頼する主なメリットは、専門家による客観的で信頼性の高い不動産の価値(適正価格)を知ることができる点です。不動産に関する話し合いでは、当事者間で感情的な対立が生じやすいこともあります。そのような場面でも、不動産鑑定士による評価は中立的な根拠となるため、当事者間の合意形成を円滑に進めるのに役立ちます。

また、もし話し合いでまとまらず裁判になった場合でも、不動産鑑定士が作成した鑑定書は裁判所の重要な判断材料となり、公平な解決につながることが期待できます。特に、共有不動産の分割における価格算定など、当事者だけでは評価が難しい複雑なケースでは、不動産鑑定士による評価が有効です。

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